ノロウイルスによる食中毒事例、2004年−大阪府

(Vol.26 p 98-98)

大阪府における2004(平成16)年の食中毒事件総数は81件で患者数 1,815名であった。このうちノロウイルスを原因とした事件は15件、患者数754名にのぼり、サルモネラやカンピロバクターを抜き病因物質別患者数のトップとなり、過去のノロウイルスを原因とする事件と比較しても患者数が増加していたことが分かる(図1)。そのなかで、12月に他県にまたがり発生した食中毒事件について報告する。

2004年12月5日、奈良市にあるH事務所(表1)において嘔吐、下痢症状を呈する社員が複数発生し、共通食の昼食弁当が疑われた。弁当を調製、販売していたのは大阪府内にある弁当調製施設で、日産約8,000食が生産されていた。これを受けて喫食調査を実施したところ、12月3日の弁当が原因であることが推定された。3日の昼食は大阪府、奈良県、兵庫県の3府県にある221事務所に、約4,300食流通していたが、下痢、嘔吐の食中毒症状を呈したのは大阪府7事務所、奈良県1事務所の計8事務所に販売した162食を食べた91人だけであった(表1)。大阪府立公衆衛生研究所において有症者23名の検査を実施したところ、ノロウイルスGIを21名から検出した。この8事務所に配食された昼食弁当は12月3日午前3:30〜4:30にかけて同じレーン(レーン1)で盛付けされたものであることがわかった。したがって、食材の一次汚染ではなく、この時間帯の作業レーンに限局された二次汚染による食中毒事件と判定した。調理従事者71名中、汚染推定時間帯に従事していた従業員のうち16名の検便を12月8日(3名)、13日(13名)に行ったところ、6名からノロウイルスGIが検出された(8日分1名、13日分5名)。汚染推定時刻にレーン1で盛付け作業を行っていたのは、そのうちの2名で、4名は加熱調理を行い、調理品は別レーンでも使用されていた。しかしながら、盛付けを行っていた2名の検便は13日に実施した結果であり、3日の状況は不明である。キャプシッド領域220bpの塩基配列の解析の結果、発症者から検出されたウイルスと同一タイプでGI/12 SaitamaKu19aGI/01/JP type (98〜99%の相同性)であった。また、2004年にGI/12 typeが検出された事例は本発生のみであった。

大阪、奈良の2県にまたがる広域食中毒事件が調理人による特定の食品汚染によって発生したことは推定されるが、従業員の勤務時間(5時間)を考えると、非常に限局された時間帯に製造された弁当のみが食中毒を引き起したことは、ノロウイルスの汚染量、汚染の機会など、ノロウイルスによる食中毒の予防や疫学調査がいかに複雑で困難であるかを物語っている。また、この弁当調製施設において6名のノロウイルス陽性者がいる状況は、従業員間でノロウイルスの感染が流行していたとも考えられ、さらに大きな食中毒事件を起こした危険性がある。ノロウイルス流行期には、盛付けなど熱加工以降の作業に従事する調理従事者の健康管理と事業所内の衛生管理が重要であることを示した事例であった。

謝辞:今回の食中毒事件の調査にあたり、奈良市における発症状況、検査結果を提供くださいました奈良市保健所微生物検査係の皆様に深謝いたします。

大阪府立公衆衛生研究所・感染症部
左近直美 依田知子 神吉政史 山崎謙治 大竹 徹 塚本定三
守口保健所
足立和人 高橋知子 山川佳苗 堤 千津 野見山 隆
高槻市保健所保健衛生課・検査係
森 利佳 横田三友紀

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る