タイ旅行から帰国後に発症した日本脳炎の1症例、2004年−米国

(Vol.26 p 101-102)

2004年6月下旬、22歳女性が32日間のタイ旅行から帰国して数時間後に、シアトルの病院に入院した。入院2日前から発熱(38.6℃)、悪心、頭痛、羞明、項部硬直が出現し、悪化したものである。髄液の細胞数は47/μl(多形核白血球97%)、蛋白は37mg/dlであった。暫定的治療としてアシクロビル、キニジン、ステロイドが投与された。2日後、構音障害、嚥下障害、重度の嗜眠、高熱(40℃)が出現し、器械的人工呼吸が開始された。MRIで視床下部の浮腫が認められた。髄液での単純ヘルペスウイルスおよびエンテロウイルスのPCR検査は陰性で、末梢血塗抹検査でマラリア原虫は認められなかった。2日後には軽快して抜管されたが、入院11日目にベル麻痺が出現した。14日後に退院し、その後外来リハビリに通院し、明らかな神経学的後遺症なく治癒した。発症4日目の血清および髄液と21日目の血清で、日本脳炎ウイルス特異的IgM抗体および中和抗体が検出され、最近感染を受けたことが確認された。

この女性は2004年5月に大学のプログラムで、他の21名の学生とともにタイのチェンマイ市を訪れた。参加者は旅行前に医療従事者を受診するよう言われていなかったが、患者は家庭医を受診していた。しかし、ワクチン接種およびマラリア予防内服は受けなかった。1カ月にわたる滞在中は網戸や蚊帳がない寮に泊まったが、チェンマイ渓谷でほとんど網戸がないに等しい小屋にも1泊した。どちらの宿でも蚊には刺された。

入院6週間後に、一緒に旅行したグループに対して電話によるコホート調査が行われた。学生22人中20人が調査に応じた。同様の症状を示した者はいなかった。年齢中央値は22歳(19〜30歳)、アジア滞在期間の中央値は6.5週(4.5〜16週)であった。旅行前に旅行医学専門家を受診したのは5名、家庭医を受診したのは7名、医療従事者を受診しなかったのは8名、日本脳炎ワクチンの接種を受けたのは1名であった。全員がタイで屋外活動を行い、19名が蚊に刺されたと報告した。寮に網戸か蚊帳があったのは3名であったが、チェンマイ市滞在中に昆虫忌避剤をときどき、あるいは常に使っていたのは15名であった。

これを受けてワシントン州の保健当局は、大学で行なう海外での活動プログラムでは、1)北米と西ヨーロッパ以外を訪れるすべての学生は、旅行前に専門の医療従事者を受診し、適切なワクチン接種やマラリア予防内服、他の健康上の注意事項などについてアドバイス求めること、2)旅行者の健康における重要な問題についてのカリキュラムを作成し、旅行前オリエンテーションで取り上げることを勧告した。

(CDC, MMWR, 54, No.5, 123-125, 2005)

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