狂犬病を発症後回復した1例、2004年−米国・ウィスコンシン州

(Vol.26 p 76-76)

狂犬病は中枢神経系のウイルス感染症であり、通常、感染した動物に咬まれて罹患するが、適切な曝露後予防処置を行わないとほとんど常に死亡する。2004年10月、ウイスコンシン州Fond du Lac郡で15歳の生来健康な女性が狂犬病を発症した。患者は発症1カ月前に、建物の床に落ちたコウモリを外へつまみ出したが、左の人差し指を咬まれた。コウモリは未捕獲で、狂犬病の検査は行われなかった。傷口の消毒を行ったが、曝露の前後ともにワクチン接種は受けていなかった。

症状は倦怠感、左手のちくちくする痛みとしびれで始まり、2日後にはふらつきと複視、第3病日には悪心・嘔吐が出現した。診察上、両側外転神経麻痺も確認された。MRI、MRAにて異常を認めず、一度帰宅したが、翌日に地方の病院へ入院となった。髄液検査の結果は白血球数: 23/μl(リンパ球93%)、赤血球数:3/μl 、蛋白:50mg/dl、糖:58mg/dlであった。その後、不明瞭言語、眼振、左手の振戦、嗜眠の悪化、発熱(38.9℃)が出現した。第6病日にはコウモリとの接触が判明し、狂犬病の鑑別のため第三次病院へ転送された。その後も神経症状は進行し、気管内挿管による人工呼吸管理が行われた。MRIや血管造影では異常がなかったが、米国CDC での検査により、血清と髄液で特異抗体が検出された。頚部皮膚生検組織の直接蛍光抗体法による抗原検査、唾液からのウイルス分離、両検体を用いたRT-PCRによるウイルスRNA検査はいずれも陰性であった。

対症療法、薬物による昏睡導入および人工呼吸器管理からなる神経保護療法が行われたが、さらに、研究プロトコールに準じた静脈内リバビリン投与が行われた。患者は7日間昏睡状態で管理された。その間、髄液の抗狂犬病ウイルスIgG抗体は1:32から1:2,048まで上昇した。その後、昏睡導入薬を漸減したところ意識状態も徐々に回復し、第33病日には抜管され、その3日後にはリハビリユニットに転送された。12月17日現在入院中であるが、病状は改善傾向にある。補助歩行、軟らかい固形物の自力摂食、数学パズルの解答、会話などの能力も回復しつつあるが、完全に回復するかどうかは不明である。

公衆衛生当局は10月21日に、マスコミを通じて市民に対し、狂犬病に関する正確な知識の啓発を行った。また、患者の学校などで接触者調査を実施した。その結果、唾液や吐物などの曝露を受けた者や飲食物を共有した者として、患者の家族5人、医療従事者5人、その他27人に曝露後ワクチン接種が行われた。

本症例は、狂犬病発症後に回復した6番目の症例である。また、曝露の前後ともにワクチン接種が行われていない点では、唯一の生存例である。通常、ワクチン接種が実施されない場合、狂犬病患者は100%死亡している。有効性が実証された治療法はないが、ワクチン接種、狂犬病免疫グロブリン、リバビリン、インターフェロンなどによる併用療法が提唱されている。医療従事者への曝露後ワクチン接種は、粘膜面や創傷のある皮膚が感染性検体に接触しない限り対象とならないが、曝露リスクを減らす上で標準予防策の徹底が重要である。狂犬病が疑われる動物に咬まれた場合に重要なことは、1)傷を石けんと水でよく洗う、2)動物を捕獲して検査と検疫を行う、3)公衆衛生当局と連絡を取る、4)医療機関を受診し、治療と曝露後ワクチン接種の必要性の評価を受けることである。

(CDC, MMWR, 53, No.50, 1171-1173, 2004)

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