各種抗菌薬に対する百日咳菌の感受性

(Vol.26 p 68-69)

百日咳はBordetella pertussis Bordetella parapertussis の感染によって起こる急性呼吸器感染症であり、特にワクチン未接種の乳幼児感染では重篤化しやすく注意を要する。百日咳患者は1981年秋から導入された改良DaPTワクチンの普及に伴い激減したが、今なお、小規模な流行1)や成人発症事例2)、院内感染事例3)などの報告もみられ、感染者は想像以上に多いものと推定される。

1994年、macrolides系抗菌薬であるerythromycin(EM)に耐性を示す株が報告4)された。EMは百日咳治療の第一選択薬と同時に予防薬として世界中で使用されている。耐性菌の増加は百日咳治療に大きな影響をおよぼすものと懸念される。本邦における百日咳菌の臨床分離株を対象とした薬剤感受性検査の報告5-7)は少なく、散見されるにすぎない。そこで、今回我々(百日咳サーベランス研究会*)は、2001年〜2002年に臨床材料から分離同定された26株を対象に薬剤感受性試験を行った。

薬剤はerythromycin (EM)、clarithromycin (CAM)、azithromycin (AZM)、clindamycin (CLDM)、tetracycline (TC)、minocycline (MINO)、sparfloxacin (SPFX)、ciprofloxacin (CPFX)、quinupristin/dalfopristin(QPR/DPR)、sulfamethoxazole/trimethoprim (ST)、rifampicin (RFP)の11薬剤を用いた。MIC の測定はEtest を用いBordet-Gengou (BG)寒天培地で行った。被験菌をBG寒天培地で35℃、2日間培養後、Trypticase soy brothにMcFarland No.0.5相当に懸濁、菌液を滅菌綿棒でBG寒天培地に塗布し、Etest ストリップを培地に配置した。培養は35℃、好気培養(湿潤環境)で行い、3日間後に阻止帯の辺縁がストリップと交差する位置の目盛りを目視で判読しMICとした。

Table 1に各薬剤に対するMIC50、MIC90およびMIC rangeを示した。macrolidesのMIC range はEMで0.023〜0.064μg/ml、CAMで0.032〜0.047μg/ml、AZMで0.023〜0.064μg/mlであった。CLDM、TC、MINO、SPFX、CPFX、STおよびRFPの7薬剤はすべて1μg/ml以下で優れた抗菌活性を示し、中でもSPFXはMIC90が0.016μg/mlと最も高い発育阻止効果を示した。また、QPR/DPRのMIC rangeは1.5〜 4μg/mlでありMIC90は4μg/mlであった。

B. pertussis B. parapertussis の薬剤感受性試験の標準法はなく、寒天平板希釈法やEtest が用いられている。Etestは特殊な機器を必要とせず栄養要求性や培養条件の厳しい菌種に対しても簡便にMICを測定できるため、臨床現場では大変有用である。近年、EtestによるB. pertussis のMIC 報告8)も見られ、再現性、信頼性が確認されている。今回の我々の検討ではEM、CAM 、AZMのMICがそれぞれ0.023〜0.064μg/ml、0.032〜0.047μg/ml、0.023〜0.064μg/mlであり、この結果は渡辺ら5)、堀川ら6)、白土ら7)の成績とほぼ同等で、MICの大きな変動はみられなかった。海外でのHoppeら9)の報告はEM 0.008〜0.5μg/ml、CAM 0.008〜0.12μg/ml、AZM 0.008〜0.12μg/mlと、我々の成績と比較するとやや広いMIC rangeを示したが、ほぼ同様の成績と考えられた。TC、MINO、SPFXおよびCPFXについても国内、海外のMIC値とほほ同じ成績で差は見られなかった。

今回の感受性検討結果より、わが国のB. pertussis の感受性成績は従来と同様にmacrolides、CLDM、TC、MINO、SPFX、CPFX、RFPおよびST合剤に対して良好な感性を示し、米国で報告されたEM耐性株は検出されなかった。しかし、耐性菌の増加している今日、百日咳菌の薬剤感受性の推移を継続して調査していくことは重要であると思われた。

*百日咳サーベランス研究会(全国88施設の小児科の先生方に参加して頂いております)

 文 献
1)大塚正之,他,日臨微誌 4:229-232, 2002
2) Cherry JD, Dev Biol Stand 89: 181-186, 1997
3)狩野孝之,他,感染症誌 75: 916-922, 2001
4) Lewis, K, et al., Pediatr Infect Dis J 14: 388-391,1995
5)渡辺 満,他,感染症誌 61: 79-86, 1987
6)堀川和美,他,感染症誌 69: 878-883, 1995
7)白土佳子,他,日臨微誌 7: 205-209, 1997
8) Wirsing C, et al., In program and abstracts of the 103rd General Meeting, American Society for Microbiology, Washington, D.C., abstr. C-081: p.75, 2003
9) Hoppe JE, Infection 26:242-246, 1998

江東微生物研究所 大塚正之

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