成人の百日咳:乳幼児との違い

(Vol.26 p 66-67)

DPTワクチン未接種児の百日咳は、特有な咳と特徴的な検査所見から臨床診断は容易である。一方、年長児・成人の百日咳は特有な咳がなく、気が付かれないまま、乳幼児への感染源となっていることが多い。成人における百日咳感染症の臨床的特徴を小児と比較した。

百日咳の家族内感染事例を紹介する。Index caseは1カ月女児で無呼吸・チアノーゼを認め入院。白血球数17,500/ul(Ly 78%)で百日咳菌を分離した。典型的な百日咳の臨床経過と検査所見と思われる。33歳母親は患児発病14日前頃から軽い咳が2週間持続していた。百日咳と血清診断できた。4歳姉は母親と同じ時期に軽い咳があり1週間持続。DPTワクチン4回接種。症状は軽症であったが、血清学的に百日咳と診断できた。6歳兄もDPTワクチン4回接種済み。患児と同じ時期に軽い咳があったが、ペア血清で抗体価上昇はなく、百日咳とは診断できなかった。パラ百日咳菌を分離した。30歳父親は患児発病2週間後から咳が始まり、時に咳込みもあった。ジフテリア・百日咳ワクチンを4回接種されていた。咳は約40日間あり、百日咳菌が分離できたが、白血球数は5,500/ul、リンパ球23%であった。以上のようにワクチン接種児や成人では症状や検査所見に特徴がないため、気づかれていない場合が多いと考えられる。

図1に1990年〜2004年までに百日咳と診断できた症例の年齢分布を示す。百日咳菌は乳幼児で臨床的に百日咳を疑った場合、分離できることが多い(分離率30〜40%)。一方、年長児・成人の場合、気が付かれたときは急性期でないことが多く、診断は血清診断に頼らざるを得ない。当院呼吸器内科で慢性咳嗽患者(4週間以上続く咳)の中で百日咳と診断できた症例の臨床的特徴を表1に示す。平均年齢は36歳、初診時白血球数は3,470〜11,820/ulで15,000/ul を超えた例はなく、リンパ球百分率も7〜58%で70%以上の症例は認められなかった。咳の特徴は、1)咳込みによる目覚め、2)発作性の咳こみ、3)咳が止まらず息苦しい、4)咳込み後の嘔吐などであった。咳のため肋骨骨折が認められた例もあった。気道過敏性検査(標準法)を実施した9例中6例(67%)に亢進が認められた。家族歴が確認できた例が23例(56%)あり、そのうち14例は児が百日咳で入院または外来治療歴が確認された。詳細な家族歴を聴取することが診断の手ががりとなる。

図2に感染症発生動向調査事業での1982年〜2004年までの定点患者総数を示す。1981年からわが国では世界に先駆け、副反応が少なく効果も優れた無菌体百日咳ワクチン(DaPT)を接種している。接種率上昇とともに百日咳患者は著明に減少してきた。ただ、年齢別割合でみると、近年、とくに15歳以上の割合が増加している。米国内も同様の傾向がある。

以上のように、報告されている成人百日咳症例は氷山の一角にすぎない(図3)。年長児・成人の百日咳は、臨床像が多彩で、診断率も低い。さらに、感染症発生動向調査事業では、小児科の定点把握疾患となっているため、青少年・成人症例を把握・報告するシステムが確立されていないのが現状である。

国立病院機構福岡病院・小児科 岡田賢司
          ・内科  野上裕子
          ・検査課 師岡津代子
福岡県保健環境研究所 堀川和美

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