おにぎりの具(さけ)が原因の黄色ブドウ球菌食中毒事例−新潟市

(Vol.26 p 46-47)

2004(平成16)年11月2日(火)18時ころ、新潟市内K病院より「嘔吐などの食中毒症状を呈した患者7名を治療した」旨の連絡が新潟市保健所にあった。

調査の結果、患者は市内のT幼稚園の園児および保護者で、この他に市内十数カ所の医療機関を受診しており、合わせて58名が同様の症状を呈していた。患者の共通食は、市内S寿司店で調理し、11月2日昼に提供されたおにぎり以外になく、またおにぎりおよび患者便からエンテロトキシンA産生黄色ブドウ球菌が検出されたため、これを原因とする食中毒事件と断定された。

T幼稚園でのおにぎりの摂食者数は園児219人、教職員等大人が33人の、計252人で、そのうち発症した人は園児57人、保護者1人(持帰りのおにぎりを食べた)の計58人であった。発症時間は早い人で14時30分、遅い人で20時であったが、大半は16時〜17時に36人(63%)と集中していた。症状は嘔吐56/58人(97%)で、回数も10〜20回と多い人がいた。吐き気46人(79%)、腹痛42人(72%)、下痢は23人(40%)で、1〜2回が主だった。

衛生試験所に搬入された検体はS寿司店のふきとり(手指も含む)14件、食品残品(おにぎりの具さけ、たらこ等)5件、幼稚園のふきとり9件、食品残品(パック入りおにぎり等)7件、吐物2件、便56件の、計93件であった。症状から嘔吐型食中毒を疑って、黄色ブドウ球菌、セレウス菌の培養を優先的に行った。さけおにぎりとおにぎりの具のさけから翌日にマンニット食塩培地一面に黄色ブドウ球菌特有のコロニーの発育がみられたため、直ちにエンテロトキシンの検査を開始した。また、おにぎり、おにぎりの具(さけ,たらこ)、みそ漬(おにぎりと同一パック)の直接塗抹染色を行ったところ、おにぎりからはグラム陽性球菌、グラム陰性桿菌が多数観察された。また、おにぎりの具のさけからは2連、4連のグラム陽性球菌が毎視野ごとに数個みられた。これらのことから、このおにぎりは高度に汚染されていることが推察されたので、一般細菌数、大腸菌群数の検査も追加して行った。黄色ブドウ球菌はに示したとおり22検体から検出された。11月2日夜のS寿司店の従事者の手指のふきとりからは菌は検出されなかった。黄色ブドウ球菌食中毒事例では、食品からの菌分離と同時に食品中のエンテロトキシンを証明することが大切であるといわれているため、直接検体の10倍乳剤の遠心上清をさらに濾過し、濃縮してRPLA法を行ったところ、弱陽性となったため、さらにELISA法で定量した結果、さけおにぎりで0.42ng/gとなり、おにぎりは約200gであったので、摂取エンテロトキシン量は約84ngと考えられた。また、同一検体のPCRをタカラのキットで行ったが、試料をPK処理したところ、さけおにぎりと具のさけから423bpのバンドが証明された。便からは17件黄色ブドウ球菌が分離されたが、そのうち13件からエンテロトキシンAが検出された。これらは食品から分離された菌とともにコアグラーゼ型はVII型であったが、エンテロトキシンAが検出されなかった4株は、コアグラーゼ型も2株がIII型で2株は不明であった。

このたびの事例は、分離菌のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)は、食品、吐物からの菌と、便から分離されエンテロトキシンA産生でコアグラーゼVII型の菌はパターンが同一であったが、他の4株の菌はそれぞれ異なったパターンを示した。聞き取り調査から、前日に調理し、室温に放置されたさけが黄色ブドウ球菌に汚染され、そこで産生されたエンテロトキシンにより発症したものと考えられた。汚染されたさけで作ったおにぎりを握った手で次々と汚染が拡大したと思われる。PFGEの検査にあたり、新潟県保健環境科学研究所細菌科の皆様のご指導に深謝致します。

新潟市衛生試験所生活課 江口ヒサ子 田中毬子
新潟市保健所食品衛生課 青木 香 本間敏則

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