保育園における腸管出血性大腸菌集団感染事例−宮城県

(Vol.26 p 45-46)

2004年9月に宮城県内の保育園で発生した腸管出血性大腸菌(EHEC)集団感染事例について、概要を報告する。

9月16日、県内の医療機関よりO血清型不明でVT1 産生によるEHEC感染症患者1名の届出があった。患者は2歳の男児で、9月7日より下痢・腹痛、9日に血便があり、同日医療機関を受診した。患者が保育園に通っていたことから、管轄保健所は同保育園における健康調査を開始した。

当センターで医療機関から患者菌株を入手し性状の確認を行った結果、リジン陰性、運動性は微弱で、市販のO型別免疫血清にも反応しなかった。さらにエンテオグラム(和光純薬株式会社製)を用いた糖分解能では、ラフィノース非分解性の特徴が認められた。そこでこの性状を利用し、検体をmEC 培地により増菌後、PCRでVT1遺伝子が検出された培養液を、ラフィノース加マッコンキー寒天培地で培養し、ラフィノース非分解性のコロニーについて再度PCRでVT1遺伝子の検出を行った。VT1遺伝子が検出されたコロニーについて、生化学試験および血清型別試験を実施し、患者菌株との性状比較を行った。

調査開始当初、患者の家族、保育園の職員、患者との接触が多いと考えられる1歳・2歳児クラスの園児を対象として検便を実施した結果、1歳・2歳児クラスの7人より菌が検出された。そのため菌の検出された園児の家族と保育園児全員に範囲を拡大して検便を実施したところ、さらに園児の家族2人から菌が検出された。しかし3歳児以上のクラスの園児から菌は検出されなかった。最終的に検便総数は235人で、菌検出者は計9人となったが、そのうち症状があったと報告されたのは園児1人(下痢)のみであった。

患者菌株を含め検出された10株について国立感染症研究所で精査を行った結果、患者菌株はOUT:H-(VT1)、それ以外の9株はO145:H-(VT1)と同定された。図1に制限酵素Xba Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)の結果を示す。レーン1が初発患者、2〜8は園児、9は2の家族、10は6の家族である。レーン3で398.4kb付近のバンドの相違、4で76.8kb付近のバンドの相違、8で28.8kbと54.7kb付近のバンドの欠損、10で167.1kb付近にバンドの付加が認められた以外は一致したパターンを示した。

患者菌株と他の9株でO血清型に違いが見られた明確な理由は得られていないが、本事例は同一時期に限定された集団から菌が検出され、そのPFGEパターンがほぼ一致したことから、これらの菌株は同一起源である可能性が考えられた。なお、保育園の調理室や遊具等のふきとり(20件)と給食の検食・食材(248件)から菌は検出されなかったことから、保育園内で人→人感染が起きたと推察されたが、感染経路の特定には至らなかった。

なお、届出医療機関が依頼した検査機関では、EHECの補助的鑑別にBeutin培地を用いていた。

宮城県保健環境センター
佐藤由美 田村広子 三品道子 菅原直子 畠山 敬 谷津壽郎 秋山和夫

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