先天性風疹症候群の2例−大分県

(Vol.26 p 41-42)

臨床的に先天性風疹症候群(CRS)と診断された2症例のウイルス学的検索を行い、風疹ウイルスの分離および風疹遺伝子を検出したので報告する。

症例1:2004(平成16)年10月15日出生。臨床症状・徴候等は不当軽量児(LFD児)、極低出生体重、小頭症。発生の状況、母親の海外渡航歴およびワクチン接種歴については明らかではなかった。得られた検体は13日齢に採取された咽頭ぬぐい液、脳脊髄液、尿、血清の4検体であった。

症例2:2004(平成16)年11月19日出生。臨床症状・徴候等は不当軽量児(LFD児)、先天性心奇形。発生の状況は、母親の住居地域で風疹の流行が認められた。母親の海外渡航歴およびワクチン接種歴はなかった。風疹抗体は母親IgM陰性、IgG陽性、患児はIgM上昇が認められた。得られた検体は7日齢に採取された咽頭ぬぐい液、尿および32日齢に採取された脳脊髄液の3検体であった。なお、本症例は感染症法に基づく届出基準を満たしていない。

ウイルス検索:ウイルス分離およびウイルス遺伝子検出は国立感染症研究所・地方衛生研究所全国協議会発行の病原体検査マニュアルに従い実施した。ウイルス分離はRK-13細胞を用い3〜4代まで継代した。ウイルスRNAの抽出は培養細胞上清からQIA amp viral RNA mini kitで行い、nested RT-PCRを行った。1st PCRプライマーはPrimer-A, B、nested PCRはPrimer-C, Dを用いた。同定はPCR産物をABI PRISM 310を用いてシーケンスし、その遺伝子配列により判定した。なお、風疹ウイルス遺伝子の検出は検体直接からも試みた。

結果:症例1で、培養細胞から風疹ウイルスが分離されたのは咽頭ぬぐい液、脳脊髄液および尿の3検体で、血清からは分離されなかった。また、咽頭ぬぐい液、尿は検体直接から風疹ウイルス遺伝子が検出された。症例2では尿および脳脊髄液の2検体からウイルスが分離され、咽頭ぬぐい液からは分離されなかった。症例1、2とも培養細胞には明瞭な細胞変性効果は認めなかった。

風疹流行状況:大分県では1992年に感染症発生動向調査の患者定点からの風疹の報告が7,570人、1993年は2,572人あったが、その後大きな流行はなく、患者報告数は小規模にとどまっていた。今回の流行は2003年第49週から患者が報告され始め、2004年第16週に患者報告数が最大となり、2004年第28週に終息した(図1)。患者定点からの患者報告数は283名で、発生規模は中程度であった。患者発生は地域性が認められ、臼杵保健所管内からの報告が最も多く、隣接する大分市保健所、佐伯保健所からも患者が報告された。

考察:CRS2症例の母親の風疹ワクチン接種歴は不明もしくは無しで、風疹HI抗体価も明らかではなかった。CRS予防のためには、妊娠可能年齢の女性は、妊娠前に予防接種を受けておくことが重要であり、妊婦や妊娠年齢の女性の管理を行う産科や婦人科においては、地域での風疹流行状況などに細心の注意を払うことが望まれる。

大分県衛生環境研究センター 吉用省三 小河正雄 田代潔子

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