The Topic of This Month Vol.26 No.1(No.299)

ロタウイルス 2004年現在

(Vol.26 p1-2)

ロタウイルスはレオウイルス科に属するRNAウイルスで、A〜G群に分類され、ヒトからはA〜C群が検出される。ロタウイルス胃腸炎の主な症状は嘔吐と下痢で、通常予後は良いが、ノロウイルスに比べると重症度が高い(本号11ページ参照)。稀に肝障害、痙攣、急性脳炎を伴うことがある(IASR 18: 4-5, 1997参照)。発展途上国ではロタウイルスは小児死亡原因の主要病原体である。1998年にG1〜4の4価経口ワクチンが米国で認可されたが、腸重積症を起こす疑いにより撤収された。その後、他社が開発したG1単価ワクチンが2004年7月にメキシコで認可されている(本号14ページ参照)。ロタウイルスは下痢便中に1010個/gと大量に排泄され、これが主として感染源となるため、オムツの適切な処理、手洗い、汚染された衣類等の次亜塩素酸消毒などが感染拡大防止の基本である。

感染症法(1999年4月施行、2003年11月改正施行)に基づく感染症発生動向調査では、全国約3,000の小児科定点から5類感染症の「感染性胃腸炎」の患者数が報告されている。「感染性胃腸炎」は多種の病原体による症候群であり、地方衛生研究所(地研)では、病原体サーベイランスの一環として上記定点の一部で採取された胃腸炎患者の糞便材料について病原体検査を行っている。さらに地研では、集団発生事例などからも病原体検査を行っている。

感染性胃腸炎患者発生状況:患者報告数は毎年11月〜12月にかけて急増し、年末年始にいったん減少するが、再び増加した後に、3〜4月以降減少している(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/04gastro.html参照)。近年、流行の前半にはノロウイルス、後半にはロタウイルスが主に検出されている(IASR 19: 248-249, 1998およびhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph/sr5j.gif参照)。2000〜2004年に「感染性胃腸炎」の散発例から検出された病原体を患者の年齢別にみると、低年齢ではロタウイルスの割合が大きかった(図1)。

ロタウイルス検出報告数の推移:ロタウイルス検出報告数は年々増加していたが(表1)、1985/86シーズンをピークとして減少し、最近は約500〜800例の報告に留まっている。C群が少数報告されているものの、A群が大部分である。2000〜2004年にA群は53地研から、C群は15地研から報告された。日本ではまだB群の検出は報告されていない。

ロタウイルス月別検出状況図2):1979/80〜1983/84シーズンはどのシーズンも1月が検出のピークであったが、1984/85〜1988/89は2月となり、その後も遅くなる傾向が続き、1996/97〜1997/98は4月であった。1999/2000〜2003/04は毎年3月がピークとなっている。

ロタウイルス検出例の年齢図3):2000〜2004年にA群が検出された2,897例では、1歳が36%、0歳24%、2歳15%で、2歳以上は少ない。0歳児では月齢が6カ月以上の割合が大きい。一方、C群70例では、後述の集団発生からの検出が多く、5〜9歳が36%、10〜14歳が33%を占めていた。

ロタウイルス検出方法図4):報告様式の検出方法の項目が1997年に変更された。1988〜1996年は酵素抗体法(EIA)、電子顕微鏡法(EM)、逆受身血球凝集法(RPHA)が主で、その他ではラテックス凝集反応法(LA)が用いられている。1997年以降はEIAが主となっている。2000年以降は、PCR、免疫クロマトグラフィー法(IC)が増加している。地研で通常用いている市販キットではA群しか検出できないため、C群の報告が極めて少ないと考えられる。また、PCRにより脳炎死亡例を含む5例の髄液からA群が検出されている(本号13ページ参照)。

集団発生:ロタウイルス胃腸炎は0〜1歳を中心に流行がみられるが、保育所、幼稚園、小学校など(本号10ページ参照)の小児や、病院、老人ホーム、福祉施設などの成人でも集団発生がみられる。2000〜2004年にA群27事例、C群8事例が報告され(表2)、うち患者数50人以上はA群6事例、C群5事例であった(表3)。伝播経路は人→人感染が推定される事例が多い。

A群ロタウイルスG血清型別:A群ロタウイルスは表面の構造蛋白VP7の抗原性によりG血清型(VP7遺伝子型)1〜14型に型別されている。また、VP4遺伝子のP遺伝子型別も行われている。2004年1月以降、オンラインシステムでのA群のG血清型別の報告が可能となった。5地研から2000年に遡って256件の報告があった。G3が最も多く、次いでG1が多い。G血清型別にはEIAとPCRが半数ずつ用いられているが、G9とG12はPCRによる(表4)。 1984〜2003年に5地域の小児外来患者を検査した成績によると(本号7ページ参照)、ロタウイルス陽性率は30%前後で、G1が1980年代後半より増加し1990年代には80〜90%を占めたが、その後急減した。G2は2000〜2002年には30〜40%を示した。2002〜2003年にはG3およびG4の増加がみられた。G9は1999〜2003年に20%前後を示した。愛知では1971〜1990年の間はG1が優勢であったが、年により型の変遷がみられた(本号8ページ参照)。岡山、愛媛では近年G3が多い(本号3ページ4ページ参照)。奈良では2003〜2004年はG4が最も多く、次いでG3が多い(本号6ページ参照)。また、岡山ではG12が検出されている(本号4ページ参照)。

日本で検出されていないG5やG8がアジアやアフリカ、南米の熱帯地方で増加している(本号14ページ参照)。これらの血清型がわが国に侵入してくることも予測されるので、血清型別の動向を継続的に調査する必要がある。

今後の問題点:わが国のロタウイルス検出報告数は1986年以降減少している。この頃から医療機関での検査が実施可能となったため、地研に送られるロタウイルス陽性の検体数が減少したと考えられる。

ロタウイルス感染症の動向を把握し、感染症対策のより正しい資料を得るためには、医療機関の協力を得て、感染性胃腸炎患者から適切に検体を採取し、C群を含むロタウイルスの検出、A群の血清型別等の詳細な検索を行う必要がある。

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