岡山県におけるA群ロタウイルス検出状況と血清型分布の最近の動向

(Vol.26 p 4-6)

A群ロタウイルスは、外殻糖蛋白(VP7)の抗原性により14の血清型(G型)に分類されているが、そのうちヒトから検出される頻度が高いのはG1〜G4であるといわれている1)。しかしながら近年、G9の世界的流行が確認されるなど、G1〜G4以外の検出報告も散見されており1)、これらのウイルスの流行動向が注目される。

我々は、岡山県内で近年流行しているA群ロタウイルスのG型別分布状況を把握するため、2000年9月〜2004年7月に(独)国立病院機構 岡山医療センター小児科で採取され、市販のA群ロタウイルス検査キットで陽性となった胃腸炎患者糞便234検体について、ELISA法(ロタMA、セロテック社製)によるG型別(G1〜G4)およびGouveaら2)のRT-PCR法を用いた型別を実施した。さらに、これらの方法で型別不能のものについては、シークエンスにより型別した。

検査の結果、234検体すべてが型別可能であった。4シーズンを通しての型別検出率ではG3(45%)、G1(30%)、G4( 8.6%)、G9(7.7%)、G2(6.8%)、G12(0.4%)の順であり、また混合感染例が2例(G2&G3、G3&G9)認められた(表1)。シーズン別の型別検出率では2000/01がG2(47%)>G1(42%)>G3(11%)、2001/02がG9(28%)>G3(24%)>G1(16%)>G2(14%)>G4(12%)>G12(2%)、2002/03がG1(41%)>G3(38%)>G4(16%)>G9( 4.7%)、2003/04がG3(75%)>G1(25%)であり、G型別分布がシーズンごとに大きく異なっていた(表1)。また、年齢別のG型別分布では大きな差は認められなかったが、6歳以上でG2の検出割合が高い(30%)傾向が認められた(表2)。

さらに、シーズン別のA群ロタウイルス流行規模を明らかにするため、採取医療機関の協力を得て2000/01〜2003/04の4シーズンに当該施設で市販キットによるA群ロタウイルス検査を実施した750検体(2000/01:141検体、2001/02:160検体、2002/03:229検体、2003/04:220検体)について、月別陽性率を算出した(図1)。医療機関の移転のため3月分のデータが得られなかった2000/01シーズンを除けば、いずれのシーズンも3月をピークとした検出パターンを示していた。なお最近数年間では、ウイルス陽性率に大きな違いは認められなかった。

以上の結果から、最近4シーズンの岡山県におけるA群ロタウイルス流行は、主流行型がシーズンごとに異なり、さらに2001/02シーズンには6種類のG型が検出されるなど、多様なウイルスが流行している実態が明らかになった。県内において1992/93〜1993/94の2シーズンに行われたG型分布調査では、シーズンを問わずG1が大部分を占めていたことから、本県におけるA群ロタウイルスの流行状況が次第に変化してきているものと思われた。さらに、近年新たに出現したG型であるG9およびG12が、岡山県内にも侵入していることが今回初めて確認された。

他地域における、最近数年間のG型別分布状況に関する報告はあまり多くないものの、千葉県における4シーズン(1998〜2002年)の調査では3)、本県の場合と同様に、優勢なG型がシーズンごとに変動しており、またG9やG12の検出報告もなされている。その一方、島根県における5シーズン(1996〜2001年)の調査では4)、1シーズンを除いていずれもG1が優勢であり、また奈良県における4シーズン(1998〜2002年)の調査でも5)、シーズンを問わずG1が優勢であったと報告している。ただし、両県においても少数ながらG9が検出されている。またZhouら6)が、1996〜2000年の4シーズンに全国5カ所で行った調査では、全体では概ねG1が優勢であったものの、シーズンによってはG9が優勢となった地域も存在していた(1998/99の東京、1999/2000の佐賀)。

以上のことから、これまでシーズンを問わずG1が主流行と考えられていたわが国のA群ロタウイルス流行状況が、地域によっては次第に変化してきていることがうかがわれた。今後このような変化が広く波及していくのかを監視するためにも、全国レベルにおけるG型別分布調査が必要と考えられる。

 文 献
1)小林宣道, 浦沢正三, ウイルス 50: 157-172, 2000
2) Gouvea, V et al., J Clin Microbiol 28: 276-282, 1990
3)篠崎邦子, 他, 第51回日本ウイルス学会学術集会抄録集:313, 2003
4)飯塚節子, 板垣朝夫, 臨床とウイルス 30(2): S38, 2002
5) Kitahori, Y et al., Jpn J Infect Dis 56: 39-41, 2003
6) Zhou, Y et al., Microbiol Immunol 47: 591-599, 2003

岡山県環境保健センター
葛谷光隆 濱野雅子 藤井理津志 小倉 肇
独立行政法人国立病院機構・岡山医療センター 金谷誠久 実村 信

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