愛媛県における感染性胃腸炎の病原体検査体制と最近のロタウイルス検出状況

(Vol.26 p 3-4)

愛媛県における感染性胃腸炎の病原体検査体制は電子顕微鏡法(EM法)を基本的方法として行っているため、検出可能な下痢症ウイルスのスペクトルが広いことが特徴である。現行の下痢症ウイルス検査フローチャートを図1に示した。患者検体(糞便および嘔吐物等)は感染症発生動向調査の検査定点等から搬入され、病原検索は細菌検査とウイルス検査を並行して実施している。ウイルス検査は、EM法とノロウイルス(NV)検出リアルタイムPCR法(影山らの方法)およびサポウイルス(SV)検出RT-PCR法(岡田らの方法)を併用して行っている。EM法ではロタウイルス、SRSV、アデノウイルス、アストロウイルス(AsV)等が対象である。

EM法でロタウイルス陽性例は、イムノクロマト法(IC)でA群ロタウイルスの同定をし、RNA-SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法でRNA泳動型分類を行う。IC法陰性例については、さらにC群ロタウイルス検出RPHA法(デンカ生研)を実施する。また、A群ロタウイルス陽性例については、ELISA 法(ロタ-MA)によるG血清型別を行っている。EM法でアデノウイルス陽性例は、IC法あるいはアデノウイルス40/41型別ELISA 法を、AsV陽性例はELISA法による血清型別(1〜7型)を実施している。PCR法によるNVまたはSV陽性例については、ダイレクトシークエンス法でカプシド領域の塩基配列を決定し、系統樹解析により遺伝子型分類を行っている。

今回は、これらの方法で実施した最近3年間のウイルス検査結果についてロタウイルスを中心に報告する。

2001年10月〜2004年9月までの間に搬入された1499例の糞便から661例(検出率44%)のウイルスが検出された。内訳は、NVが341例(検出率23%)で最も多く、次いでロタウイルスが165例(11%)、SVが79例、アデノウイルスが43例、AsVが32例、レオウイルスが1例であった。

月別のウイルス検出状況は図2のとおりで、寒冷期に特徴的なロタウイルスやNVの季節的消長が明らかに示された。ロタウイルスは毎シーズン11〜1月に検出され始め、3〜4月に最も多く検出された。2003年にはC群ロタウイルスが3〜5月の間に13例検出され、3年ぶりにC群ロタウイルスの小流行があったものと推察された(IASR 24: 190-191)。

一方、NVは10〜11月にかけて流行が始まり、ロタウイルス流行の前にピークを迎えるが、春までNVの検出が続く傾向が繰り返された。最近の感染性胃腸炎患者の発生状況をみると、12月前後と3月前後にピークが見られる2峰性の流行パターンを示している。ウイルス検索の結果は、初めのピークの主病因はNVで、第2のピークの主な病因がA群ロタウイルスであることを示唆している。感染性胃腸炎においてNVとともにA群ロタウイルスの重要性が再確認された。なお、AsVは毎年5月をピークに4〜6月に検出され、アデノウイルスでは季節的消長が見られず、年間を通して検出されている。

検出されたA群ロタウイルスのG血清型別を表1に示した。A群ロタウイルス141例のうち材料が残っていた130例について血清型別を行った結果、90例のG血清型が決定された。3シーズンを通してG3が59例(45%)で最も多く、次いでG1(15%)、G4(7%)、G2(2%)で、型別不明が40例(31%)あった。本県では2000/01シーズン以前の10年間は、G1が主流行型でG3はほとんど検出されなかった(データ示さず)ことから、2000/01シーズン以降、主流行型がG1からG3に推移したものと考えられた。なお、最近国内でのG9の検出報告が増加傾向であることから、ELISAで型別不明例についてRT-PCR法等でG血清型別を行う必要がある。

図3にウイルスが検出された患者の年齢分布を示した。A群ロタウイルスは1歳が最も多く、3歳以下で約75%を占めていたのに対し、C群ロタウイルスは4〜6歳の年齢層が最も多く、4歳以上が全体の約85%で大部分を占めていた。NVやSVと比較すると、A群ロタウイルスの年齢分布が最も低かった。

EM法はウイルスの種類を問わず検出可能であり、検出感度が低いという短所にかかわらず、種々のウイルスが原因となる感染性胃腸炎の病原検索には非常に有用である。ロタウイルスとNVの検出率はともに低かったが、その理由は検体採取の方法にあると考えられた。すなわち、これらの検体はウイルスの流行、非流行期を問わず、毎月ほぼ同数採取されており、また、ウイルス性のみならず細菌性胃腸炎も検査対象にしているためと考えられた。

愛媛県立衛生環境研究所
山下育孝 近藤玲子 豊嶋千俊 大瀬戸光明 井上博雄

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