飲食店における赤痢菌による食中毒事例−栃木県

(Vol.25 p 337-338)

2004年5月14日の感染症発生届から、5月31日の終息宣言までの18日間、疫学調査および赤痢菌の二次感染予防の対策を実施してきたので、その概要を報告する。

5月14日、2カ所の医療機関から同一町内に在住する女性(A氏)と男子学生(B氏)の細菌性赤痢(ソンネ)による発生届があった。A氏は5月10日に発症し、38.7℃の発熱、軟便があり、B氏は5月11日に発症し、38.4℃の発熱、悪心に始まり、翌日39℃の発熱と水様便があった。両患者とも服薬後に症状は軽減し、調査時には症状はなかった。

A氏が施設の調理に従事していたことから、施設入所者や施設利用者等および職員の検病調査、健康診断(検便)を実施するとともに、両患者宅と当該施設に対して消毒命令を出した。

A氏は、5月7日勤務先の歓送迎会(出席者30名)のため、和風レストラン(以下「飲食店」という。)で会食をしていた。B氏は5月9日に家人が持ち帰った仕出し(飲食店で調理)を食べていたことが判明した。海外渡航歴は両患者ともなかった。食品の購入については、両患者とも近隣のスーパーを利用していたことから同スーパーを調査したが、苦情等の情報はなかった。両患者宅は飲料水として井戸水を使用しているが、井戸水から赤痢菌は検出されなかった。

両患者に共通する食事が飲食店で調理されていたこと、両患者から分離された赤痢菌のパルスフィールド・ゲル電気泳動パターンが同一であったこと()、飲食店を利用した他のグループにも発症者がいたことから、飲食店を原因施設と断定し、5月19日から営業禁止処分とした。

5月17日、当保健所内に感染症危機管理体制を構築し、飲食店の喫食者に対する対応を行った。所内研修会を開催し、全職員を対象に赤痢菌に関する研修および現況について周知徹底を図り、電話や来所相談体制を確立した。また、医師会へ情報提供をするとともに、当所、当所支所、飲食店所在地の町保健センターに相談窓口を開設した。5月4日〜17日までの飲食店利用者を対象に、5月20日〜5月26日の一週間相談窓口を開設した。相談状況については、電話相談63件、来所者は当所13件、町保健センター25件の相談があった。

飲食店の利用者は個人およびグループを合わせて2,082人であった。利用者の健康診断実施者は312名、患者関係者は178名の計490名の検査を実施した結果、A氏グループの歓送迎会出席者中、2名(A氏を除く)から赤痢菌が検出された。B氏の接触者からは赤痢菌は検出されなかった。検病調査の結果、有症者は14名で赤痢菌が検出されたのは4名であった。

飲食店の従業員全員海外渡航歴はなく、健康診断の結果全員陰性であった。また食品、ふきとり、井戸水についても検査したが、赤痢菌は検出されなかった。原因食品追求のため、χ2検定を実施したが発症者が少ないこともあり、5%の危険率で有意に推定できる食品はなく、また、患者4名の共通食品がマグロおよびイカであったことから、これらの食材を中心に遡り調査を実施したが、流通経路において苦情等は確認できず、原因食品の特定には至らなかった。飲食店の利用者が2,000名以上に達したにもかかわらず、発症者が14名で患者が4名に限定されていたのは、使用された食材の一部が赤痢菌に軽度に汚染されていたためと考えられる。

今回の事例で感染拡大が懸念されたが、大事に至らずに事件は終息した。

栃木県県西健康福祉センター
大貫益生 松村京子 斉藤 晃 郡司泰雄 八島利光 熊田雅充 梶田俊行
栃木県保健環境センター
舩渡川圭次 長 則夫 高岩澄夫

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