2004/05シーズンインフルエンザHI抗体保有状況調査速報−第2報(2004年12月4日現在)

(Vol.25 p 332-335)

感染症流行予測調査事業は、厚生労働省が実施主体となり、都道府県、都道府県衛生研究所ならびに国立感染症研究所が協力して、定期予防接種対象疾患について各種疫学調査を実施している。インフルエンザについては、本年度もインフルエンザ流行シーズン前、ワクチン接種前における一般国民の抗体保有状況(感受性調査)を調査している。ここでは、速報として報告されたデータから年齢群別抗体保有状況、近年5年間の年次比較について報告する。

本年度のインフルエンザHI抗体測定には、次の4抗原が使用された。このうち1、2、3が今シーズンのワクチンに使用されている株と同じである。

  1. A/New Caledonia/20/99(H1N1)
  2. A/Wyoming/3/2003(H3N2)
  3. B/Shanghai(上海)/361/2002(山形系統株)
  4. B/Brisbane/32/2002(ビクトリア系統株)

2004/05シーズンワクチン株選定の経緯については、本月報Vol.25、No.9「平成16年度(2004/05シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過」1)を参照頂きたい。

一般の方々、医療従事者からよくある質問への対応に関しては、インフルエンザ Q&A(2004年10月改訂)が感染症情報センターホームページ(http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/fluQA/index.html)に公開されている2)。また、フォーカスのインフルエンザ(http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/index.html)には、インフルエンザ Q&Aを含め、インフルエンザ総説および国内情報、インフルエンザ施設内感染予防の手引き、インフルエンザ国内患者発生動向調査、インフルエンザ国内分離状況、インフルエンザ抗体保有状況、インフルエンザ・海外の状況(リンク集)、IDWR 2001年通巻第3巻第44号の「感染症の話」3)を掲載しており、疫学、病原体、臨床症状、病原診断、予防・治療に関して解説がなされているのでこれからのシーズンに有用である。また、本月報Vol.25、No.11はインフルエンザの特集号である4)。

 血清検体:

採血時期は原則として2004年7〜9月であるが、当該シーズンのインフルエンザの流行が終息していることが確実な場合は、この時期以前でも可とする。ただし5月以降であること。

2004(平成16)年12月4日現在、北海道、秋田、山形、福島、群馬、千葉、東京、神奈川、新潟、富山、福井、山梨、長野、静岡、山口、愛媛、高知、佐賀、宮崎の19都県から合計5,366検体分の報告があった。

年齢群別の検査数は、0〜4歳672例、5〜9歳629例、10〜14歳580例、15〜19歳587例、20〜29歳651例、30〜39歳637例、40〜49歳551例、50〜59歳561例、60歳以上496例、不明2例であった。

A/New Caledonia/20/99(H1N1) に対する抗体保有率(1:40以上):有効防御免疫の指標と見なされるHI抗体価40以上の抗体保有率は、10〜14歳群で56%と最も高く、5〜9歳、15〜19歳、20代群ではそれぞれ46、54、33%であったが、30代、40代、50代、60歳以上群ではそれぞれ22、17、21%と低く、0〜4歳群では10%と極めて低い(図1上段)。

A/Wyoming/3/2003(H3N2)に対する抗体保有率(1:40以上):昨シーズンのわが国の流行はA/H3N2型が95%以上を占め、その中でもA/Fujian(福建)/411/2002に類似する株が90%以上を占めたことから1)、今シーズンのワクチン株は4シーズン続いたA/Panama/2007/99からA/Wyoming/3/2003に変更された。A/Wyoming/3/2003はA/Fujian/411/2002様株である。抗体保有率は10〜14歳群で77%と最も高く、5〜9歳群では67%、15〜19歳群で52%と比較的高い値を示したが、0〜4歳群および成人層では21〜33%と低い。ただし、今シーズン調査株の中では最も抗体保有率が高く、昨シーズン流行の影響が考えられた(図1下段)。

B/Shanghai/361/2002(山形系統株)に対する抗体保有率(1:40以上):15〜19歳群で47%と最も高く、次いで10〜14歳群、20代でそれぞれ39%、26%であったが、5〜9歳群、30代、40代、60歳以上群ではそれぞれ20、20、15、12%と低く、特に0〜4歳群と50代は3%、6%と極めて低い保有率であった(図2上段)。

B/Brisbane/32/2002(ビクトリア系統株)に対する抗体保有率(1:40以上):本株は、山形系統株である今年のワクチン株B/Shanghai/361/2002と異なり、ビクトリア系統株である。本株は今年のワクチン株が山形系統株であったことから別系統のウイルスの代表として一昨シーズンに流行の主流であった本株が調査対象株となった。この株に対するHI抗体保有率はすべての年齢群で極めて低く、最も高くても、20代、30代の12%であり、それ以外の群はすべて10%未満と極めて低い(図2下段)。

近年5年間の1:40以上の抗体保有率の比較:2001年度調査以降、すべての株について60歳以上群では50代より抗体保有率はわずかながら高値であり、ワクチン接種が65歳以上で定期接種に組み込まれた影響が示唆された。従来ワクチンの効果は5〜6カ月程度と言われているが、毎年ワクチン接種を繰り返すことで、集団での抗体保有率は高くなることが考えられた。5〜19歳群は例年他の年齢層より抗体保有率が高い傾向にあるが、集団生活を送っている年齢層では、インフルエンザウイルスの曝露を頻回に受けることにより、他の年齢層より抗体価が高く維持されていることが推察される。今年度もビクトリア系統株以外では同様の傾向が認められた。

A/H1N1型の抗体保有率は、過去4年と比較すると0〜9歳群以外では最も高いかあるいは同等の保有率を示した。A/New Caledonia/20/99 が5年連続してワクチン株に選択されており、昨シーズン、一昨シーズンはA/H1N1の流行がなかったにもかかわらず抗体保有率が上昇していることは、ワクチンを連続して接種することによる効果が推察された。今シーズンは、10〜14歳群が56%と抗体保有率のピークを示した。0〜4歳群、30代以上では抗体保有率が低かったことからワクチン接種を受ける等、注意が必要である(図3上段)。

A/H3N2型の抗体保有率は、昨年と比較するとすべての年齢層で低値であった。特に、0〜4歳群と20代〜40代群では過去4年間と比較しても低値である。今シーズンは昨シーズンに比べて特に成人層の保有率が低く、ワクチン株類似のウイルスが流行する可能性が高いことから、抗体保有率の低い年齢層ではワクチン接種を積極的に受ける等、特に注意が必要である(図3下段)。

B型の抗体保有率は、ワクチン株であるB/Shanghai/361/2002(山形系統株)についてはすべての年齢層について、昨シーズンより高いか同等の抗体保有率を示したが、A型に比べると全年齢層で十分とは言えず、ワクチン接種が勧められる。一方、ワクチン株とは異なった系統のビクトリア系統株に関しては全年齢層で極めて低く、B型インフルエンザの動向に関しては注意が必要である(図4)。

コメント:2003/04シーズンの流行はA型インフルエンザウイルス(H3N2)(以下A/H3N2型)が全体の95%を占め、残り5%がB型インフルエンザウイルス(以下B型)の混合流行であり、A型インフルエンザウイルス(H1N1)の流行は2002/03シーズンに引き続き認められなかった5)。また2003/04シーズンの特徴は、患者から分離されたA/H3N2型ウイルスがA/Fujian/411/2002様株であり、昨年のワクチン株であるA/Panama/2007/99とはHI試験で4倍以上の変異が認められ、抗原変異に関係する特徴的なアミノ酸置換も確認されており、変異株が流行していたことが既に確認されている5)。今年のワクチン株は昨シーズン流行の主流であった株から選択されていること1)、0〜4歳群ならびに成人層で抗体保有率が低いことから、全国的な流行が始まる前にワクチン接種を受けておくことが強く勧められる。B型については昨シーズン大きな流行は認められなかったものの、世界的なウイルス分離の結果から山形系統株が主流になってきており、今シーズンは山形系統からワクチン株が選択されている1)。厚生労働省によると、今シーズンは2004(平成16)年11月27日までに、既に大阪府、群馬県でA/H3N2型による学級閉鎖が、神奈川県でAH3型による休校、兵庫県でB型による学級閉鎖、学年閉鎖、岡山県でA/H1N1型による学級閉鎖が報告されており、6ー9)、さらに地域流行の報告が出されている東京から10)、感染症法に基づいた急性脳炎の全数報告により、インフルエンザ脳症の患者報告がなされている11)。また、愛知県では海外渡航者からA/H3N2型ウイルスが分離されている12)。現時点での抗体保有率は十分とは言えないことから、早めの対策が求められる。

なお、本速報は感染症情報センターホームページ(http://idsc.nih.go.jp/yosoku/Flumenu.html)で随時更新の予定である。

 文 献
1) 小田切孝人, 田代眞人,IASR 25(9): 238-239,2004
2) http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/fluQA/index.html
3) IDWR 3(44): 8-12, 2001
4) IASR 25(11): 278-279, 2004
5) 国立感染症研究所ウイルス第3部第1室、WHOインフルエンザ協力センター, IASR 25(11): 280-285, 2004
6) 加瀬哲男, 他, IASR 25(11): 290-291, 2004
7) 森川佐依子, 他, IASR 25(11): 291-292, 2004
8) 山岡政興、他、本号 336-337
9) 葛谷光隆、他、本号 335-336
10) 新開敬行、他、本号 336
11) 厚生労働省、国立感染症研究所:発生動向総覧, IDWR 6(42): 2, 2004
12) 佐藤克彦, 他, IASR 25(11): 290, 2004

国立感染症研究所感染症情報センター第3室
国立感染症研究所ウイルス第3部第1室

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