山口県での高病原性鳥インフルエンザ事例の概要
−対人対策を中心に


(Vol.25 p 294-295)

2004(平成16)年1月12日(成人の日:休日)、本邦79年ぶりといわれる高病原性鳥インフルエンザ(以下、「本病」と言う)発生が当センター(山口環境保健所)管内の阿東町生雲地区の養鶏場で確認され、迅速かつ効果的な対応が求められた。

本病発生に関する主対策は、現場から周囲への感染拡大防止のための防疫対策(徹底した鶏舎消毒や殺処分された鶏と鶏糞・飼料等の処理)と、その一連の作業に従事した者および本病の濃厚接触者として当該養鶏場従業員とその家族への感染確認と感染予防対策の二つ、いわば「対物対策」と「対人対策」に大別されよう。

当保健所は対人対策に携わったので下記のごとく報告をするが、本邦での前回発生から非常に長期間が経過しており、本事例は"初発"と見なして発生時の大混乱の中で対策を実行したものであるので、現在の一定の集約された対策とは若干異なることをお許し願いたい。

 1.初期対応の流れ

本病発生確定と同時に山口県庁内に関連6部局庁から成る防疫対策本部が設置され、当センターはその本部(直接的には、対策本部に参加している健康福祉部健康増進課)からの指示を受けて行動をすることになった。そこで、当センターの「危機管理マニュアル〜感染症対応指針〜」に沿って所内緊急対策会議を立ち上げ、指示受け入れの体制を即日整えた。それらの経時的なフローは表1に示す通りである。

本病発生の当日から翌日にかけて当所がなした事柄は(1)〜(5)であるが、とりわけ、最初の3項目は優先的に実施した。このうち、健康調査では問診・検温とヒトインフルエンザウイルス抗原検出迅速キットを用いた咽頭ぬぐい液の検査と、さらなる詳細なウイルス学的検索のために当該養鶏場の従業員とその家族計12名に採血を行った。

いずれも、本病の感染を示唆する結果は認められなかった。

 2.防疫対策作業従事者の健康調査および感染防止対策

本病発生翌日から本格的な消毒作業と平行して、当該養鶏場の鶏殺処分が開始され、埋却場所が決定されるとともに、死亡鶏や鶏糞・鶏飼料等の埋却作業が開始された。

これらの作業従事者(養鶏場従業員を含む)について、本病の潜伏期間が1〜3日であることを踏まえ、反復して健康調査を行って感染の有無をチェックした。

その経時的対応は表2に示すが、本病発生5日目から長期的な感染予防の観点からヒトインフルエンザワクチン接種を希望者に実施するとともに、発病予防の目的で抗インフルエンザウイルス剤リン酸オセルタミビル1日 150mg(朝・夕分服)5日分を初回作業従事者全員に処方した(当初、投薬対象者は本病関連を疑わせる上気道炎症状保有者のみとしていたが、季節的に普通感冒罹患者との鑑別が困難であり、作業者の全員投与とした)。

咽頭ぬぐい液の全検査者についてウイルス抗原陽性者は認められず、また、ワクチン接種とリン酸オセルタミビル投与が同一日となったが、副反応と思われるものもなかった。

また、鳥インフルエンザの人への感染が生じた場合も考え、感染症病棟を保有する医療機関確保によりその事態に備えたが、利用するには至らなかった。

作業工程と健康調査実施人数については、図1に示すように鶏糞処理作業に多くの人手を要したことが分かる。

 3.埋却地およびその周辺の環境影響調査

本病の人への感染以外に、当該養鶏場周辺では井戸水が飲用されており、上述の埋却による地下水汚染に起因する住民の健康への影響も懸念されるため、表3に示す場所や項目で水質検査を実施してきているが、今までは対策すべき大きな問題は見出されていない。

 4.おわりに

2004(平成16)年1月12日に高病原性鳥インフルエンザ発生が確認され、同20日には初期防疫措置が終了、2月19日に終息宣言とともに鶏・卵の移動制限が解除、5月19日には「国の防疫マニュアルに定めるすべての防疫措置が完了した」との知事宣言が発せられた。

本病発生から9カ月を経た今、幸いにも本県では新たな事例は認められていない。

山口県山口健康福祉センター所長 上村輝夫

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