A群抗原を保有するStreptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis

(Vol.25 p 257-258)

レンサ球菌属の分類は、初め赤血球に対する溶血性の違いから、α型:メトヘモグロビンを生じ緑色の溶血環を示すもの、α’型(α-prime型):不完全な溶血で溶血環内に赤血球の一部が残存するもの、β型:完全な溶血環を生じるもの、γ型:溶血しないものに分類された。その後、Lancefieldによって細胞壁多糖体抗原の免疫学的差異により分類が行われるようになり、アルファベットでA群から順に群名が名付けられていった。この溶血性による分類や血清学的分類はレンサ球菌の菌種名を表しているものではなく、必ずしも1つの群が分類上の1菌種であるとは限らない()。ヒトから分離される頻度の高いA群、B群、C群、G群抗原を保有するβ溶血レンサ球菌に関しても、A群抗原はStreptococcus pyogenes 以外にanginosus group (milleri group)の一部の菌が保有している。B群抗原を保有するのはS. agalactiae 1菌種であるが、C群およびG群抗原を保有するレンサ球菌にはS. dysgalactiae S. equi およびS. canis がある。S. dysgalactiae はさらにヒトから分離されβ溶血の大きなコロニーを作りC群またはG群抗原を保有するS. dysgalactiae subsp. equisimilis と動物から分離されβ、α溶血または非溶血の大きなコロニーを作りC群またはL群抗原を保有するS. dysgalactiae subsp. dysgalactiae の2つの亜種に分けられている。また従来のS. zooepidemicus S. equi の亜種に分類されている。その他anginosus groupの菌がC群またはG群抗原を保有する場合もある。

この血清学的な群別は分類上の菌種の同定が正確に行えないにもかかわらず、臨床的にも疫学的にも便宜であることから現在でも一般に用いられている。すなわちA群抗原を保有するレンサ球菌は1菌種ではないが、実際にヒト由来の材料から分離されたβ溶血レンサ球菌の同定を行う場合、anginosus groupの一部の菌は血液寒天培地上でβ溶血を示すが、好気培養での集落はS. pyogenes に比べてはるかに小さく容易に判別が可能である。またanginosus groupは上気道の感染を起こすこともなく、まれに菌血症、膿瘍などの検査材料から分離されるだけであり、ヒトに感染症を引き起こす頻度はS. pyogenes に比べてはるかに低い。そのため血液寒天培地上でβ溶血を示し、カタラーゼ陰性、グラム陽性の球菌がA群抗原を保有していればS. pyogenes と同定しても問題は生じなかった。また、C群およびG群S. dysgalactiae subsp. equisimilis S. pyogenesに類似した上気道感染、皮膚感染、敗血症、心内膜炎、髄膜炎、敗血性関節炎、続発症として糸球体腎炎を起こしたという報告もあるが、S. pyogenes に比べて発生頻度も低く菌種の同定はそれほど必要とされなかった。

ところが、1997年にBertら1)がA群抗原を保有するS. dysgalactiae subsp. equisimilis による菌血症の1症例を初めて報告した。わが国でも2000年に初めて検出報告があり、その後分離例が相次ぎ、昨年から今年にかけては劇症型溶血性レンサ球菌感染症の診断基準を満たす症例からも3例検出されている。

このA群S. dys. subsp. equisimilis は血清学的な群別による同定法ではS. pyogenes と判別できない。血清T型別を実施した場合でもS. pyogenes は型別不能菌が多いため、気づかれずにS. pyogenes T型別不能菌として同定されてしまう危険性も高い。本菌の病原性に関しては十分に解析が行われていないため不明な点も多いが、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の診断基準を満たす症例、菌血症の症例などから分離されており、G群またはC群S. dys. subsp. equisimilis と病原性に差はないと推測される。

近年S. dys. subsp. equisimilis による劇症例の報告も多くなっているが、感染症法では、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は「突発的に発症し、急激に進行するA群レンサ球菌による敗血症性ショック病態である」と定義されており、またその届出基準は「血液または通常ならば菌の生息しない臓器からA群レンサ球菌を検出」となっている。この場合の「A群レンサ球菌」はS. pyogenes の和名であり、単にA群抗原を保有するだけのS. dys. subsp. equisimilis は含まれないと解釈すべきである。そのため現段階ではS. pyogenes とA群S. dys. subsp. equisimilis は明確に判別しておく必要がある。

わが国におけるA群S. dys. subsp. equisimilis の侵淫度は推測するしかないが、地域的に離れた東京、富山、大阪で検出されていること、劇症例以外の分離菌は菌種の同定や詳細な解析があまりなされていないために見逃されている可能性も高いこと等から、かなり蔓延していることも考えられる。今後、レンサ球菌の検査を実施する場合には、A群S. dys. subsp. equisimilis の存在を念頭に置き、群別試験の結果はその菌の性状の一つとして考え、PYR試験等の生化学的性状を確認して菌種の同定を行う必要があると考える。

文 献
1)Bert F. and Lambert-Zechovsky N., Infection 25 : 250-251, 1997

大阪府立公衆衛生研究所 勝川千尋 河原隆二 田丸亜貴
富山県衛生研究所 田中大祐
東京都健康安全研究センター 遠藤美代子 奥野ルミ
国立感染症研究所 池辺忠義

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