A群溶血性レンサ球菌のT型とemm 型:咽頭炎および皮膚感染症由来株を中心に−富山県

(Vol.25 p 256-256)

A群溶血性レンサ球菌による疾患として最も多いのは咽頭炎で、次に膿痂疹等の皮膚感染症である。近年、M血清型別のかわりに、M蛋白遺伝子(emm )の塩基配列の違いに基づくemm 型別が用いられるようになってきている。そこで、患者由来株についてT血清型別とemm 型別を行い、T型とemm 型との関連性、咽頭炎および皮膚感染症の原因菌の主要菌型を調べた結果を報告する。

1990〜2003年の14年間に富山県内の医療機関で患者から分離されたA群レンサ球菌235株(咽頭炎患者の咽頭由来112株、皮膚感染症患者の皮膚由来92株、その他由来31株)のT型とemm 型を表1に示す。emm 型別は、T型別不能株を含むすべての菌株について可能であり、30種類のemm 型に分けられた。T1、T2、T6、T8、T12、T22、T25、T3/B3264型の菌株は1種類のemm 型を示した。一方、T3、T4、T9、T11、T13、T18、T28、TB3264型の菌株は2〜5種類のemm 型に分けられた。T型別不能37株は14種類と多数のemm 型に分けられ、そのうちemm58 型が16株(43%)と多かった。その他のT型の菌株は1株のみであった。また、多くのemm 型は逆に複数のT型に分けられ、特にemm77 型菌はT型別不能を除いて5種類もの異なるT型を示した。T血清型別に加えてemm 型別を行うことによって、A群レンサ球菌の詳細な型別が可能であった。

菌株の由来とT型およびemm 型の関係を見ると、咽頭由来株ではT1/emm1 、T4/emm4 、T12/emm12 が多く、皮膚由来株ではT11/emm89 、T28/emm28 、TB3264/emm94 、T型別不能/emm58 が多かった。

ところで、皮膚感染症由来株のM血清型分布は、咽頭炎由来株のそれとは違いが認められると海外では報告されているが、国内では報告はほとんどなかった。

今回、咽頭炎および皮膚感染症の原因となるA群レンサ球菌のemm 型別を実施したところ、それぞれの疾患ごとにemm 型分布に違いが認められた。様々な疾患の原因となるA群レンサ球菌について、T血清型別に加えてemm 型別を行うことで、それぞれの疾患の原因菌に特徴的な菌型の把握が可能と考えられる。本調査の一部はMicrobiol. Immunol., 46(7), 419-423, 2002に報告した。

富山県衛生研究所・細菌部 田中大祐 磯部順子 綿引正則

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