子宮頸管炎患部から分離されたクラミジアの性状

(Vol.25 p 204-205)

今日、性器クラミジア感染症の診断はほとんどがChlamydia trachomatis (以下Ctと略)種内に普遍的な7.5kbプラスミドを標的とする市販のPCRキットやLCRキットで実施されている。実験的条件ではいずれのキットも感染単位である基本小体(EB)2個が検出限界で、感度、特異性や判定の客観性は他の検出法の追従を許さないといっても過言ではない。しかし、プラスミドを欠失したCtが臨床材料から分離された例1-3)や、臨床分離株のプラッククローニングで得られた株4)が存在することは、PCRやLCRキットによる診断に予期せぬ過ちをもたらす可能性を示している。加えて、われわれがこれまで相互にブラインドで実施したPCRと培養法によって検査した223症例から分離された75株には、PCRやLCRに反応しないOK133とOK135の2株が含まれていた。この事実はCtだけを対象としたPCRやLCRによる診断、とりわけ原因菌の分離、維持ができない診断法への警鐘といえる。したがって、この特殊と考えられる株による性感染症(STD)の疫学的検討は今後の課題であろう。

OK133とOK135はいずれも子宮頸管炎患者(前者27歳、後者20歳)の子宮頸管スワブからMcCoy細胞接種によって分離された。重度の帯下を伴ったOK135の患者は受診当初PCR陽性、薬物療法後も症状の効果的改善がなかったのでCtの薬剤耐性を疑って、3代の盲継代培養を経て分離された株である。OK133の患者はSTD精査希望、受診時採取のスワブのPCRは陽性、2回の盲継代培養で得られた株である。両株の性状を標準株Ct D/UW-3/Cxの性状と比較して、上記の結果を得た(表1)。

一段増殖曲線にみる次代感染価の立ち上がりはCt D株が感染後24時間前後であるのに対してOK135は19時間、これはChlamydophila psittaci (Cps)Cal 10株に匹敵する増殖速度である。OK133の増殖曲線作製は完了していないが、感染価の立ち上がりはOK135にほぼ一致した。

抗クラミジア抗菌薬(CAM、MINO、およびTFLX)に対するMICはCAM、MINO、TFLXの順に0.016、0.016〜0.031、0.25ug/mlで、Ct D株と有意差を認めなかった。したがって、OK135患者における投薬後の症状の継続は薬剤の体内動態に関連し、クラミジアの薬剤耐性によるものではないことが示唆された。

同意に基づいて採取されたOK135 患者回復期血清の抗体価をOK133、OK135、Ct L2、Cps Cal 10、Chlamydophila pneumoniae TW183を抗原としたmicroIFおよびMFAで調べたところ、OK133、OK135株に対する抗体価は1:1,024、Ct L2に対しては1:128、Cps Cal 10に対しては1:512、TW183に対しては1:256であり、OK133とOK135の間に差がなかった。

OK135の精製EBから抽出したゲノムDNAのompA 遺伝子の塩基配列を調べたところ、Chlamydophila caviae GPICのそれと97.7%の相同性を示し、この塩基配列に基づく推定アミノ酸配列は100%一致した。OK133の主要外膜蛋白(MOMP)遺伝子の解析結果は得ていないが、上記の性状からOK135と類似のクラミジア株の可能性が強く示唆される。

OK135もOK133も受診当初のスワブ検体のPCRはともに陽性であり、盲継代をかさねた分離培養の結果、Ctとは異なる株が得られたことから、採取されたスワブ検体にはCtとC. caviae 様クラミジアが混在しており、継代培養を重ねた結果、増殖速度の遅いCtが排除され、増殖速度の速いC. caviae 様クラミジアが残ったものと考えられる。

OK133、OK135の病原性についての検討はいまだなされていない。従って、患者の症状とこれらの株の関連は不明である。しかし、STD患者の患部からこれらのクラミジアが分離された事実は、「クラミジアによるSTDはCt感染症である」とする診断法に問題を提起している。この意味から、クラミジアの分離培養と分離クラミジアの性状解析の重要性が改めて示された。

 文 献
1) Peterson E.M. et al., Plasmid 28: 1444-1448, 1990
2) Farencena A. et al., Infect. Immun. 65: 2965-2969, 1997
3) Stothard D.S. et al., Infect. Immun. 66: 6010-6013, 1998
4) Matsumoto A. et al., J. Clin. Microbiol. 36: 3013-3019, 1998

岡山大学大学院医歯学総合研究科泌尿器病態学 松本 明 村尾 航 公文裕巳
川崎医科大学附属川崎病院産婦人科 藤原道久
岐阜大学応用生物学部応用生物学科獣医学講座獣医微生物学分野
福士秀人 Rajesh Chahota

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