2004年4月〜5月に認められたノロウイルスによる胃腸炎の集団発生事例−大阪市
(Vol.25 p 179-179)

2004年4月〜5月に大阪市内の保育所、幼稚園、小学校、中学校において相次いで発生したノロウイルス(NV)による胃腸炎の集団発生事例について報告する。

4つの集団発生事例の概要はに示した。まず4月下旬頃に大阪市東淀川区内のA幼稚園および鶴見区内のB小学校において集団発生が認められた。その後、5月中旬に天王寺区内のC中学校、5月下旬に住吉区内のD幼稚園と相次いで集団発生が認められた。いずれの事例も患者の主症状は嘔吐、下痢であった。

4事例について食中毒菌およびNVの検査を行ったところ、原因と考えられる食中毒菌は検出されなかったが、KageyamaらのリアルタイムPCR法(J. Clin. Microbiol. 41, 1548-57, 2003)を用いたNVの検査では、すべての事例の患者からgenogroup II(GII)NVが検出された。さらに各事例からNV陽性5検体ずつについて、KojimaらのSKプライマー(J. Virol. Methods 100, 107-14, 2002)を用いてCapsid N/S領域を増幅した。増幅されたNV遺伝子はダイレクトシーケンス法により塩基配列を決定し、Katayamaらの方法(Virol-ogy 299, 225-39, 2002)に基づいて遺伝子型別を行った。遺伝子型番号は、Greenら(Fields Virology, 4th ed., 841-74, 2001)および片山ら(IDWR 6, 14-19, 2004)に従った。その結果、今回型別したすべてのNV株は、Melksham/1994/UK(GenBank accession No. X81879)と塩基配列で98.0%〜99.0%、推定アミノ酸配列で99.0%〜 100%の相同性があり、GII/2(Melksham/Snow Mountain)型に分類された。同じ事例内の株間では塩基配列で99.7%〜 100%の相同性があり、推定アミノ酸配列は 100%一致した。4事例間では塩基配列の相同性が98.7%〜99.7%あり、推定アミノ酸配列の相同性は99.0%〜 100%であった。すべての事例から同じ遺伝子型で非常に近縁なNVが検出されたが、4施設は地理的に隣接しておらず、関連性は認められなかった。またD幼稚園の事例において患者1名から検出されたgenogroup I(GI)NVは、本事例とは関係なく、散発的な発生であると考えられた。

これらの4事例は、患者の喫食調査等の疫学情報と検査結果から食中毒ではないと判断され、人から人へ感染が拡がった事例であると考えられた。各事例においては感染拡大防止のため、大阪市保健所および当該地区保健福祉センター合同で施設内の消毒、本疾病が疑われる患者の吐物や糞便の適切な処理、手洗いの励行などの衛生指導を行った。その後、それぞれの施設における感染は終息した。4月〜5月の大きなNV流行は稀であるが、この時期にはNVによる感染性胃腸炎の流行が大阪市のみならず全国的に認められていた。大阪市保健所は学校、各種施設、医師会などに文書の配付を行うとともに、新聞、大阪市ホームページ等でNVの流行や感染予防に関して広く市民に注意を呼びかけた。

最後に本事例に関して疫学等の情報収集に協力していただいた健康福祉局生活衛生課、保健所および関係保健福祉センター各位に深謝いたします。

大阪市立環境科学研究所
入谷展弘 改田 厚 阿部仁一郎 小笠原 準 久保英幸 村上 司
吉田英樹 石井営次

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