専門学校の体育祭で発生したSalmonella Virchowによる食中毒事例−京都市

(Vol.25 p 155-156)

概要:2003(平成15)年10月9日の午前、7日に開催された専門学校の体育祭に参加した教員16名と生徒174名中35名程度が下痢、発熱、腹痛等の食中毒症状を示していると、専門学校から当該保健所に連絡があった。保健所で調査したところ、その時点で教員2名と生徒41名が有症であることが判明した。

症状および発症状況:有症者の発症状況は、10月7日に4名が、8日には64名が、9日には27名が、10日には1名が症状を呈していた。初発症状としては腹痛が26名、発熱が22名、下痢が19名、頭痛が13名、嘔気、悪寒がそれぞれ10名で、その他脱力感、倦怠感、嘔吐であった。

有症者82名の下痢の回数は10回以上が22名と多く、他は3〜5回が33名、1〜2回も8名あった。また、下痢症状のあった82名のうち、水様性下痢を呈した有症者は76名であった。発熱症状のあった71名のうち38℃以上は48名で、37℃以上も16名いた。嘔吐症状のあった19名は4回以下が10名と比較的回数が少なく、5回以上は2名で、残りの7名は不明であった。有症者の潜伏時間は1〜69時間で、平均は約30時間であった。

検体の種類および件数:当研究所では有症者の検便20検体、調理従事者の検便2検体、参考食品および食材7検体、施設のふきとり9検体、調理従事者の手指ふきとり2検体の合計40検体について食中毒菌の検査を実施した。

検査結果:当研究所で検査した有症者20名の検便のうち17検体からSalmonella Virchowを検出した。市外在住の有症者の検便を所轄の自治体に依頼した結果、8名中7名からS . Virchowが、医療機関に受診した有症者12名中4名からSalmonella O7が検出された。

調理従事者の検便や手指のふきとりの他、施設のふきとり、参考食品および食材からも菌は検出されなかった。

考察:食後1時間から症状を訴える生徒もいたが、検便をして菌が分離された生徒のうち、潜伏時間が最も短かったのは7時間30分後であった。検査した食材、残置食、調理従事者の検便および施設のふきとり等から菌は検出されなかったが、生徒が発症した専門学校では部活動や給食施設がなく、有症者は体育祭で提供された昼食の弁当と缶入りのお茶以外には共通食がなかったため、当該の弁当調製施設を原因施設と断定した。弁当のメニューは、ご飯、鶏唐揚げ、おくら煮物、きんぴら(ゴボウ、レンコン)、漬物(さくら漬け、カリカリ梅)、キャベツ千切りであった。当日一般客用に調製販売した各種弁当65食にも、キャベツ千切りを除き、全部または一部同じメニューを使用していた。当該弁当は専門学校の体育祭に納入された190食を含め214食調製販売されていたが、他からの苦情はなかった。

当該弁当を調製した施設は小規模で、調理従事者も2名で、受注した弁当の調製を、前日から下処理および一部の調理を行っていたこと等から、弁当の受注数が施設の調理能力を上回っていたと考慮される。さらに、一般客の注文に応じながら作業を行っていたことも、食中毒防止の三原則「清潔」、「迅速・冷却」、「加熱」から逸脱しており、今回の事件を引き起こした要因と考える。

残置食が保存されておらず、検査を行った参考食品や食材から食中毒菌が検出されなかったことから原因食品を特定できなかったが、喫食状況および発症状況の統計から「キャベツ千切り」が原因食品として濃厚な可能性を示し、さらに調理行程の聞き取り調査により、調理器具を介してサルモネラに汚染された可能性が高いと推測できる結果が得られた。

今回我々が経験した集団食中毒事例は、サルモネラの中でも比較的報告例の少ないS . Virchowによる事例で、最終的には教員5名と生徒91名の合計96名もの有症者数を出す大規模な食中毒であった。

京都市衛生公害研究所
山野親逸 辻 尚信 原田 保 伊藤千恵 小石智和 丸岡捷治

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