腸管出血性大腸菌O157:H7による死亡事例−宮崎県

(Vol.25 p 143-144)

2003年4月、宮崎市において、腸管出血性大腸菌O157:H7 感染により、2名の姉弟が死亡するという事例が発生したので、その概要を報告する。

4月13日、宮崎市内の医療機関から、5歳の男児(患者A)から腸管出血性大腸菌O157(Stx1&2産生)が検出され、6歳の姉(患者B)も溶血性尿毒症症候群(HUS)症状を呈しているとの届け出があった。これら2名は、4月10日に下痢、激しい腹痛、鮮血便の症状が出現したため、近医を受診し入院となったが、4月12日には、患者Bの症状が悪化し、HUS 発症が疑われ、患者Aも腎機能の低下が認められたので、同時に県立病院へ転院した。しかし、4月12日に患者Bが死亡し、4月23日には、患者Aも死亡した(表1)。

感染原因究明のため、保健所では、家族や接触者の健康調査、喫食調査、患者らの行動調査を実施した。その結果、患者家族3名(父、母、兄)には症状が認められなかった。また、患者Aは保育園に通園しており、患者Bも3月31日まで同じ保育園に通園していたが、その保育園の園児、職員には3月25日〜4月14日の間に有症状者はいなかった。さらに、患者A、Bは、3月末〜4月10日まで、ほとんど自宅で食事をしていたが、その具体的な献立等は不明であった。なお、3月26日に自宅で焼肉をし、4月6〜7日に患者A、Bおよび兄の3人で郊外の親戚の家に1泊していた。

さらに、保健所において、患者家族3名および患者らが宿泊した親戚宅の2名の接触者検便を行った。その結果、患者家族からO157は検出されなかった。親戚宅2名については、そのうち1名が、4月14日に腹痛、下痢が認められたため、医療機関を受診し、検査を実施したがO157は検出されなかった。他の1名も当該菌は検出されなかった。

また、親戚の家では、4頭の牛を飼養しており、患者ら2名だけが牛舎横斜面下でどろんこ遊びをしていたことが判明したため、牛の糞2検体、地面に溜まった泥水(どろんこ遊びに使っていた)2検体の検査を、保健所および当所で実施した。その結果、牛の糞からはOUT:HNM (Stx1, eaeA +)、OUT:H21 (Stx2, eaeA -)、O126:HUT (Stx1, eaeA -)、泥水からはO157:H7 (Stx1&2, eaeA +)、OUT:HUT (Stx1, eaeA +)が検出された(表2)。

そこで、この泥水から検出されたO157:H7株が、患者A、Bから検出されたO157:H7株と同一起源であるかどうかを確認するため、制限酵素Xba Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による遺伝子多型解析を行った。その結果、図1に示すように、患者株と泥水株は異なるPFGEパターンを示し、起源の異なる株であることが判明した。

以上のように、本事例では、食事および食材が検査できなかったことに加え、親戚宅の牛舎付近の環境材料からも患者分離株と同一の菌が検出されなかったことから、感染源、感染経路の特定には至らなかった。しかし、牛の糞、および牛舎付近の環境材料からO157:H7 (Stx1&2)をはじめ、多種類のSTECが検出されたことは、これらの環境がSTEC感染の要因になりうることを示唆するものであり、今後もこのことを十分留意して原因究明にあたる必要があると考えられた。

宮崎県衛生環境研究所 河野喜美子 東美香 平崎勝之 鈴木 泉

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る