市販血清では同定できない腸管出血性大腸菌の分離状況(2000年〜2003年)

(Vol.25 p 141-143)

2000年〜2003年の4年間に国立感染症研究所・細菌第一部に送付された腸管出血性大腸菌(EHEC)の血清型別成績について表1表2表3表4にまとめた()。

本成績は、デンマークのStatens Serum Instituteが指定している大腸菌血清型別用標準菌株を用いて自家血清を作製し、これらを用いた凝集反応により判定した結果についてまとめたものである。したがって、病原体情報として報告される集計結果とは必ずしも一致しないことがあるので注意されたい。

なお、表の記載に関して、O74 、O91 、0103、O121、O145、O161、O165は近日中にデンカ生研から発売予定とのことから、市販血清の区分とした。

2000年〜2003年の集計結果は、1996年〜1999年までと同様に、血清群O157(血清型O157:H7 またはO157:HNM)、O26 (大部分がO26:H11またはO26:HNM)、O111(O111:HNM)で全体の95%以上を占めている。これらに続いて、血清群O103(大部分がO103:H2 )、O121(大部分がO121:H19)、O91(大部分がO91:HNM またはO91:H14)が検出されている。それ以外の血清型については事例数が少ないため、その意義付けは難しいが、例年多くの血清型が分離されている(本月報Vol.21、94参照)。

このように大部分のEHECは特定の血清型として単離されることが多いが、これらの血清型は他のカテゴリーに属する下痢原性大腸菌の血清型と共通するものが多い。したがって、EHECが多数分離されるようになった1996年以降は、それ以前に行われていたように、血清型別成績だけで下痢原性大腸菌のカテゴリーを推測することは大変難しくなってきた。さらに、O抗原の型別のみでのカテゴリーの推測は、糞便中に存在する一般大腸菌と鑑別できない場合があり、特に注意を要する。従って、EHECが推測される分離株においても、必ずVero毒素産生性または毒素遺伝子の有無を確認する必要がある。

今後も国内におけるEHECの血清型についてのサーベイランスはPFGEと同様に細菌第一部で継続いたしますので、市販の診断用血清で型別不能なEHEC株もO157株と同様に細菌第一部に送付いただきますよう、重ねて関係各位にお願い申し上げます。

():表1表2表3のO抗原成績はO1〜O173、表4はO1〜O181の抗血清を用いた型別成績が含まれている。

注意事項:感染研に対して、「O1血清型の大腸菌が分離されたのでEHECと判断し、抗菌薬による治療を行ったが、なかなか除菌ができないのでどのようにしたらよいか」という問い合わせが時々みられる。EHECの中には確かに血清型O1の大腸菌が存在するが、表にみられるように非常に稀である。それに比べ、健康者の便から分離される大腸菌の中で最も多く分離されるものが血清型O1、O18である(これらは既知の病原性因子を持たないものがほとんどである)(本月報Vol.21、95-96参照)。大腸菌の病原性を判定する場合には、血清型だけに頼りすぎることなく、病原性因子を持つかどうかを、遺伝学的方法、あるいは免疫学的方法で調べてから判定することが重要である。

国立感染症研究所細菌第一部 伊豫田 淳 田村和満 渡辺治雄

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