The Topic of This Month Vol.25 No.4(No.290)

アデノウイルスと咽頭結膜熱 2003

(Vol.25 p94-95)

アデノウイルスはA〜Fの6群に分類され、51の血清型がある。アデノウイルス感染は多彩な症状を示すが、上気道炎などの呼吸器疾患を起こすのはB群(3、7型)、C群(1、2、5、6型)、E群(4型)である(本月報Vol.21, No.2特集参照)。アデノウイルス感染症のうち咽頭結膜熱(PCF)は感染症発生動向調査における5類感染症として、小児科定点から毎週患者数が報告されている。PCFの届け出基準は発熱・咽頭発赤と結膜充血の3主症状が挙げられている(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/kansensyo/kijun5b.html#16)。咽頭結膜熱の主な病原体はアデノウイルス3型であるが、7型と4型もPCFの病原となる。2003年のPCFの流行は小児科定点当たりのPCF患者数の集計を開始した1987年以来最大であり、さらに従来患者発生が少なかった冬季に再び増加し、2004年の現在も続いている。

PCF患者発生状況:感染症発生動向調査の小児科定点から2003年に報告されたPCF 患者数は40,714人(定点当たり13.39人)で、2003年第16週から過去10年間同週の最高レベルで増加し、第29週にピークとなった。その後、第42週まで減少したが、第43週以降再び増加に転じた。2004年に入っても依然過去同時期最高のレベルで推移している(図1)。2000年以降、それ以前にはなかった冬季の増加傾向がみられていたが、2003年晩秋以降はさらにその傾向が顕著となっている。2003年の定点当たり年間報告数を都道府県別にみると(図2)、大分県が46.0で最も多く、20.0以上が全国各地の11県であった。2003年の患者の年齢は1〜5歳の各年齢がそれぞれ13〜16%で、合わせて全体の4分の3を占めた。この年齢分布は2002年までとほぼ同様であったが、2004年に入ってからは2歳以下の割合がやや増加している。

ウイルス検出状況:全国の地方衛生研究所(地研)で2003年1〜12月にアデノウイルス1〜7型が検出された分離材料を表1に示す。いずれの型も主に咽頭ぬぐい液(またはその他の鼻咽喉材料)から検出されている。咽頭ぬぐい液からウイルスが検出された患者の診断名をみると(表2)、PCF患者は360例で、316例からはアデノウイルスが検出され、このうち209例が3型であった。

2003年のアデノウイルス3型の流行はPCF患者の推移と同様に、夏のピークを過ぎた後、冬季に再び増加がみられた(図3)。

都道府県別のアデノウイルス3型検出状況を図4に示す。2002年10〜12月には秋田県など18都府県、2003年1〜3月には兵庫県など21都道府県、4〜6月には香川県など28都府県、7〜9月には奈良県、大阪府、山形県など30都道府県で検出されていたが、PCF患者が再増加した10〜12月には山形県、岡山県、北海道、愛知県など33都道府県と、多くの地域で検出されている。

1995〜1998年に流行し、肺炎などの重症例や死亡例が報告された7型(本月報Vol.18, No.4特集参照)は、2003年は6月をピークに(図3)46例が報告され、うち41例が咽頭ぬぐい液からの検出であった(表1)。2003年7月には岡山で高校の運動部寮での7型集団感染が報告された(本月報Vol. 24, 260-261参照)。

アデノウイルス1〜7型が検出された患者の年齢をみると(図5)、従来同様、3型と7型は4歳をピークに検出され、15歳以上からも検出されているのに対し、1、2、5型は1歳をピークに低年齢層から検出されている(本月報Vol. 21, No. 2特集参照)。

今回の流行では夏季のPCF IASR Vol.24, 225 & 261-262参照)だけでなく、冬季の集団かぜや散発例からもアデノウイルスが検出されている(本号3ページ4ページ & 5ページ、およびIASR Vol.24, 136-137 & 160-161参照)。最近のアデノウイルス3型の検出状況(図6)を図1のPCF患者発生状況と比較すると、PCF患者からのアデノウイルス3型検出数(の黒塗りの部分)はPCF患者の推移とよく一致していた。また、PCF以外の患者からは(の白抜きの部分)過去にも冬季にかなりの数の3型が検出されていた。

まとめ:3型のみならずアデノウイルスは不明熱、上気道炎、インフルエンザ・インフルエンザ様疾患や肺炎などの下気道炎患者からも多数検出されている(表2)。これらは小児科領域を中心とした臨床においてアデノウイルス感染症の重要性にさらに注目すべきことを示唆していると考えられる。アデノウイルスは7型だけでなく、3型や2型も重篤な呼吸器疾患を起こすが、最近普及しているアデノウイルス抗原迅速キットでは血清型別はできない。病原体定点でPCFやその他の呼吸器疾患患者から採取した検体について、地研等でウイルス分離同定を行い、アデノウイルスの血清型別の動向を捕えて医療機関等に情報を提供することが必要である。

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