沖縄県はしか" 0" プロジェクトの進捗状況

(Vol.25 p 64-66)

はじめに

沖縄県では、1998〜2001年にかけての麻疹流行を契機として2001年4月に沖縄県はしか"0"プロジェクト委員会が発足し、県内における麻疹制圧を目ざして全県的に数々の運動を展開してきた。これまでの主な活動についてはすでに報告しているので1-4)、最近の進捗状況についてのべる。

1.サーベイランスシステムの構築

1)全数把握制度の実施:有効なサーベイランスシステムの構築は、プロジェクト発足時からの重要な課題であった。委員会では県福祉保健部健康増進課を中心に関係機関との調整を図り、「沖縄県麻疹発生全数把握実施要領」を作成し、2001年1月1日より施行した。県内各医療機関は麻疹と診断したすべての症例を、それぞれの地域の保健所へ報告する。それを県健康増進課において集計し、週報として各関係機関へ連絡することになっている。確定診断のためのウイルス検索については、県衛生環境研究所がPCR検査およびウイルス検出と型分類を行っている。この全数把握制度で2003年1月1日〜12月31日までに報告された症例は39例であった。その後の追跡調査で17例は麻疹が否定され、3例は不明であった。麻疹と確定診断された9例(18歳以上の成人麻疹3例を含む)のうち、ウイルス検索でPCR陽性7例、ウイルス陽性3例であった。遺伝子型ではD5が2例、H1が4例で、本県においてもH1の侵淫が初めて確認された5)。3症例は観光産業に関連があり、今後の新しい課題を示唆している。全数把握制度の問題点は疑い例の報告が多いことであるが、迅速性を考えると止むを得ないところがある。本県では各保健所が報告例の追跡調査を行い、確定診断の有無を確認している。

2)麻疹ワクチン接種の広域化:県医師会が中心になって各地区医師会、市町村などとの調整をおこない、2003年6月から、麻疹ワクチンについてのみ広域化が実現した。従来ワクチン接種が地区医師会と各市町村との契約で実施されているので、集団接種や接種料金などの問題はあるものの、大部分において合意された。

3)麻疹発生時対応ガイドラインの制定:全数把握制度を活用し、麻疹発生時における関係機関の迅速な対応により、効果的な感染拡大防止を図ることを目的としてガイドラインを作成した。このガイドラインに基づき、県、保健所、市町村、医師会、保育所、学校等が連携して具体的な取り組みが可能となった。各関係機関がプロジェクトの意義を充分に認識し、このガイドラインを円滑かつ有効に運用することを期待している。麻疹発生のレベルを、(1)確診例、未確定を問わず発生報告があった場合、(2)同一保健所管内で1週間以内に複数市町村での発生、(3)複数の保健所管内で1週間以内に複数例発生あり県内流行の兆しがある場合、の3段階に分けて対応を明記した。

2.那覇市への重点的アプローチ

県内最大の人口を有する那覇市の接種率がいまだに80%前後を低迷しているので、プロジェクト委員会は重点的に那覇市の接種率向上に取り組んでいる。県・中央保健所が中心になって、2003(平成15)年9月に五者会議(那覇市、那覇市医師会、市立病院小児科、県中央保健所、はしか“0”プロジェクト委員会)を開催した。さらに今年度より那覇市教育委員会、県青少年児童家庭課も加わり、連携して接種率向上につとめることが話し合われた。対象者への1歳早期の接種勧奨と複数回の通知、1歳6カ月児、3歳児健診における未接種者を「すぐ受けようシステム」にのせて接種行動につなげる等、実施可能なものから取り組んでいる。

3.はしか" 0" 週間の設定と日曜日一斉接種

県とはしか" 0" プロジェクト委員会の共催で、2002(平成14)年度より毎年5〜6月に、はしか"0"週間を設定してキャンペーンセレモニーを実施している。"1歳になったらはしかワクチン接種を"をキャッチフレーズにして、TVや新聞で一般市民へ広報し、さらに各市町村へも積極的な取り組みを依頼している。2003(平成15)年度は県小児科医会がこのキャンペーンに呼応して、日曜日一斉予防接種を実施した。21施設(病院7、診療所14)が参加し、 289件のワクチン接種がなされた。保護者からの感触は良好であり、キャンペーンとしての効果がみられた。

4.乳児期ワクチン接種者の3歳児健診における追跡調査

本県では、2001(平成13)年の麻疹流行時に緊急避難的措置として、6カ月〜12カ月未満児、 3,755名に公費負担による任意の麻疹ワクチン接種が実施され、乳児への罹患拡大阻止に極めて有効であった2-4)。しかしながらわが国では、乳児期接種の安全性について充分な検証がなされていないので、被接種児の健康状態について追跡調査が行われている。具志川市は単独に、1歳6カ月児健診にアンケート調査を実施し、健康上何ら問題なく経過していることを中間報告した4)。2003(平成15)年度は被接種児が3歳に達しているので、再び追跡調査を行うことになった。今回は16市町村の3歳児健診においてアンケート調査を実施中であり、2004(平成16)年度中にその結果が報告される予定である。

5.県における予防接種推進事業の予算化とワクチン接種率のマップ化

県は2003(平成15)年度より予防接種推進事業費を予算化し、市町村で実施される公的健診に保健師を派遣して予防接種の普及啓発にのりだした。さらに、1歳児の麻疹ワクチン接種率をマップ化し、接種率80%未満の市町村を赤色、80〜90%未満を黄色、90%以上を青色で表示した。

おわりに

本県のはしか"0"プロジェクトは、2005年までに1歳児のワクチン接種率95%以上達成することを目標にしているが、2002(平成14)年度で90%以上の接種率になっている市町村は15カ所(29%)にすぎない。今後はワクチン戦略6)に基づく、目標設定のある具体的行動計画を実践していく予定である。

文 献
1)知念正雄, IASR 22(11): 284-285, 2001
2)知念正雄, 小児感染免疫 15: 87-94, 2003
3)浜端宏英, 他, 外来小児科 6: 220-228, 2003
4)安次嶺馨, 他, チャイルドヘルス 7(1): 63-66, 2004
5)中村正治, 他, 第35回沖縄県公衆衛生学会、2003年10月31日 口演
6)知念正雄, 小児内科 36(3):101-105, 2004

沖縄県はしか"0"プロジェクト委員会 委員長 知念正雄

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