フィリピンへの団体旅行で感染したデング熱3症例

(Vol.25 p 31-32)

デング熱は世界的に流行地域が拡大し、患者数が増加しており、わが国でも、輸入感染症として臨床現場で遭遇する機会も想定される。以下に実際に経験したフィリピン旅行後に発症したデング熱3症例の、臨床経過を中心に報告する。症例1、2は発熱、発疹、全身倦怠感にて、麻疹を疑われ、他院に入院していたが、血小板減少を認め、当院に転院となった。症例3は発熱、発疹にて当院皮膚科を受診した。

症例1:58歳、男性

2001(平成13)年6月21日〜24日まで、フィリピン・セブ島へ44人の団体旅行にでかけた。帰国後5日目の6月29日より39℃以上の高熱が続いた。全身倦怠感のため7月1日近医に入院し、抗菌薬の点滴を受けたが解熱しなかった。7月4日体幹に麻疹様の発疹が出現し、著しい血小板減少(14,000/mm3Table 1)が認められたため、7月6日に当院転院となった。入院時の所見では眼瞼結膜が充血し、腹部を中心に麻疹様発疹を認めた。

症例2:53歳、女性(症例1の妻)

症例1とともにフィリピンへ旅行。帰国後3日目の6月27日より39℃以上の高熱が続いた。6月29日近医入院し、抗菌薬の点滴を受けた。翌30日より解熱傾向があったが、体幹、上肢に麻疹様発疹が出現した。血小板減少(Table 1)が認められたため、当院転院となった。眼瞼結膜が充血し、口蓋、大臼歯奥に白斑、四肢に融合した紅斑を認めた。

症例3:45歳、女性

症例1、2とともにフィリピンへ旅行。帰国後5日目の6月29日より38℃以上の発熱、膝関節・足関節痛、易疲労感が出現した。7月4日両上肢に発疹が出現し、7月6日当院皮膚科を受診した。ウイルス感染症疑いとして解熱剤の処方を受けたが、その後肝機能の悪化(Table 1)を認め内科入院となった。

経過:3症例とも、フィリピンより帰国後3〜5日で、突然の高熱で発症しており、輸入感染症が疑われた。渡航歴、現地の感染症流行状況、潜伏期間、臨床症状より、デング熱を疑い、国立感染症研究所にて3症例の血清検査を実施した。

症例1は著しい血小板減少が認められたため、入院日に血小板10単位輸血し、プレドニゾロン60mgを投与した。症例2、3は維持輸液のみで経過観察とした。その後、血清検査の結果、3症例ともデングウイルス特異的IgM抗体が陽性であることよりデング熱の確定診断を得た(Table 2)。症例1は血清のRT-PCRによりウイルス特異的遺伝子が検出され、また培養細胞C6/36に血清を接種しウイルスが分離された。

本疾患は不顕性感染も多いため、ツアーに同行した他の40例の血清検査も行ったが、特異的IgM抗体陽性例はなかった。

症例1、2、3とも臨床経過、血液所見は急速に改善し、1週間あまりで退院となった。

考察:デングウイルス感染の診断は、臨床症状や海外渡航歴、現地の感染状況、潜伏期間から推測し、確定診断は血清・病原体診断でなされる。ただし、同じフラビウイルス科の日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルスと免疫学的に交叉するので、特にHI試験、IgG-ELISA法の解釈には注意が必要である。

今回の3症例は著しい血小板減少を認めたが、出血傾向や血管透過性の亢進は認めず、デング熱と診断した。デング熱は特異的症状に乏しいが、症例1が入院後、眼窩痛を訴えたのは比較的特徴的と思われた。症例1は、血小板が14,000/mm3まで低下しており、血小板輸血と同時にプレドニゾロンの投与も行い、急速な改善をみた。しかしステロイドを投与しなかった症例2、3とも同様に改善しており、プレドニゾロンの効果は不明であった。3症例は日本脳炎ウイルスに対するHI titerおよびデング2型、3型に対する中和抗体価も上昇していたが交叉反応と考えられた。

年間500万人の日本人が流行地域に旅行している現状を考えると、今後輸入感染症として臨床の現場で遭遇する機会も増加すると思われる。臨床現場で、渡航歴があり、発熱、発疹を主訴に受診した患者を見た場合、デング熱の可能性を考える必要があると思われる。また、当時セブ島では例年の3倍を超える患者が発生していたが、今回フィリピン旅行に参加した44人のうち誰一人としてデング熱の流行地域であったことを知らなかったことも付け加えたい。
 文 献
徳田敦子,  他, 感染症学雑誌 76(11): 953-957, 2002

船橋市立医療センター 徳田敦子 多部田弘士

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