特別養護老人ホームにおけるノロウイルスの集団感染事例−浜松市

(Vol.24 p 320-321)

浜松市内の特別養護老人ホーム(入所者110名)において、人や環境を介したと思われるノロウイルスの集団感染が発生したので報告する。

2003(平成15)年4月1日の朝、入所者の1人が下痢・嘔吐をし、その後4月12日までの間に入所者50名、介護者11名が同様の症状を呈した。主症状は、嘔吐・下痢・発熱で比較的軽症であった。

入所者および介護者の便について、細菌およびウイルス検査を実施したところ、RT-PCR法およびハイブリダイゼーション法によりノロウイルス genogroup IIが検出され、その他の食中毒菌は検出されなかった。検出されたウイルスのうち4検体について、G2-SKF/Rプライマーで増幅された344塩基の配列を、PCRダイレクトシーケンス法により決定し比較したところ、すべて一致し、Lordsdale型であった。

当初は同所の施設で調理された食事を原因とする食中毒が疑われたため、保管されていた検食や調理従事者の便を検査したが、ノロウイルスやその他の食中毒菌は検出されなかった。入所者は同一メニューの食事を摂っているが、ウイルスが検出された介護者は施設の食事を喫食しておらず、経鼻栄養者の発症もあり、同所の調理施設が業務を自粛した4月3日以降も患者の発生が続いたことから、同施設を原因とする食中毒の可能性は否定された。

初発の患者が嘔吐の際、介護者2名は素手で吐物の処理をしており、その後同介護者や周囲の入所者が発症し、最初は同じフロアー(3階)に患者は集中していたが、次第に2階へも拡がっていった()。3階は痴呆者、2階は車椅子の要介護者、1階は自立者が入所しており、痴呆者による誤飲防止のため各居室に石鹸・消毒薬の設置が無いため、3階は、便や食事を介助する介護者や、清潔観念の乏しい入所者自身の手指を介して感染が拡がったと推測された。さらに、3階の介護者はローテーションにより2階の介護補助に入っており、浴室は1・2・3階で交差して利用し、下痢症状のある人の利用もあったため、1・2階へも介護や入浴等で拡がっていったと考えられた。また、初発患者のノロウイルス感染経路に関しては解明できなかった。

本事例発生後は、業者および職員により全館の消毒を行うとともに、今後の発生防止対策として以下を実施した。

 ・類似施設の再発防止のため報道発表
 ・介助後の手洗い・消毒の励行
 ・食事前の入居者の手洗いの徹底
 ・排泄介助ごとの手袋の使い捨て
 ・浴槽の消毒と有症者はシャワー浴に限定
 ・手すりなどの次亜塩素酸による消毒
 ・汚染衣類の次亜塩素酸への充分な浸漬と衣類洗濯時の消毒薬の濃度確認
 ・汚染したおむつの放置防止
 ・衛生講習会の開催

ノロウイルス感染は比較的軽症のことが多いため、今回も幸いにして高齢者の施設にもかかわらず重症者は見られなかった。しかし、高齢化社会により今後同様の事例の増加が懸念され、A型肝炎等重症化しやすい病原体の人→人感染が発生する可能性もある。特に痴呆者等の施設では、発生防止や病原体の排除が困難であるため、事前に十分な対策が必要と思われる。

浜松市保健環境研究所 古田敏彦 岩渕文江 高柳知志
浜松市保健所保健予防課 尾関啓子 水田英子
浜松市保健所生活衛生課 橋本久美子 小出知方

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