カキにおけるノロウイルスのリスクアナリシス

(Vol.24 p 319-319)

世界的に食品の流通が広がる中、食品由来の健康被害が問題となっている。食品の輸出入における衛生取り扱い規範や衛生管理基準は科学的データに基づき決定される必要がある。食品由来の健康危害、特に、微生物による食中毒はいまだに各国で起きている。

わが国では食中毒の対策を考える場合、これまでは主に専門家が疫学データから判断して行政担当者と協力しながら対策を立ててきた。しかしながら、BSE問題を契機に、リスクアセスメントおよびリスクコミュニケーションを担当する機関として2003年7月に内閣府に食品安全委員会が設立された。リスクマネジメントを担当する厚生労働省や農林水産省と組織を別にしたところが最新の考え方に基づいている。リスクアナリシスの枠組みはようやく始まったところであるが、今後は可能な限り食品微生物のリスクマネジメントに必要な定量的リスクアセスメントを行っていくことが期待されている。

リスクアナリシスにはリスクマネジメント、リスクアセスメントおよびリスクコミュニケーションの3要素がある。リスクマネジメントの中でリスクアセスメントの必要性の決定が行われ、リスクアセスメントが必要となればリスクプロファイルを作成する必要がある。

これまで、厚生科学研究で食品中の微生物のリスク評価に関する研究を行ってきた。ノロウイルスについても定量的リスクアセスメントを行うことを計画しているが、現時点では十分なデータが集まっていないことから、リスクアセスメントに必要なリスクプロファイルを作成したところである。

リスクプロファイルには、1.問題となる病原微生物・媒介食品の組み合わせ、2.公衆衛生上の問題点、3.食品製造、加工、流通と摂取、4.その他のリスクプロファイルの項目、5.リスクアセスメントの必要性とリスクアセッサーへの質問提起、6.現在入手可能な情報と、不足している知見および情報、7.参考文献、の7項目が含まれる。

問題となる病原微生物・媒介食品の組み合わせを考えるには、食中毒統計を参照する必要がある。最近の食中毒統計によると患者数、事件数ともノロウイルス(旧小型球形ウイルス:SRSV)によるものが急増している。このことから、ノロウイルスによる食中毒の対策が重要であるが、ノロウイルスは食品に由来するものだけではなく、人から人へ感染する感染症としての側面も持っている。また、これまでの食中毒事件では必ずしも原因食品が明らかとはなっていない。原因食品が明らかとなった事例の中で約44%はカキが原因食品であった。

媒介食品としてのカキの一次生産過程、加工過程、流通・輸送、貯蔵・保存、調理などさまざまな過程を経て人がカキを摂取するまでの汚染ウイルス量と頻度、最終的なカキの摂取量データが必要となる。この中には、生で摂食する場合と加熱調理をして摂食する場合が含まれる。

現在の生食用カキの成分規格は、生菌数が50,000/g以下、大腸菌最確数が230/100g以下となっている。また、むき身の生カキについて腸炎ビブリオ最確数が 100/g以下となっている。しかし、これが設定された時点ではノロウイルスは考慮されていなかった。

リスクアセスメントには、1.Hazard Identification、2.Exposure Assessment、3.Hazard Characterization、4.Risk Characterizationがあり、定量的リスクアセスメントではExposure AssessmentとHazard Characterizationにおける定量データの有無により定量的リスクアセスメントが実行可能かどうか判断される。

現時点でHazard Characterization(各種ウイルス量における発症確率の推計)に使用可能なデータはそろっていない。また、Exposure Assessmentでは養殖段階から収穫、流通、調理、消費と各段階を経て最終的に口に入るときのウイルス量を推計することになる。養殖海域での海水の汚染状況、カキの汚染状況に関しては定量データが集まりつつある。

国立医薬品食品衛生研究所・食品衛生管理部 山本茂貴
国立医薬品食品衛生研究所・安全情報部 春日文子
国立感染症研究所・感染症情報センター 重松美加

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