台湾への渡航者から分離されたインフルエンザウイルス−川崎市
(Vol.24 p 258-258)

川崎市在住の男性(41歳)が台湾渡航中にインフルエンザに感染したと思われる症例がみられたので報告する。

患者は2003年7月6日〜11日まで台湾に出張し、 台北市内に宿泊していた。7月8日に発症し、 38℃台の発熱、 関節痛、 喉の痛みを訴え、 帰国後、 医療機関を受診した。台湾が重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行地域であったことから、 本人はSARSの感染を心配していたが、 7月5日に台湾の流行地域指定は解除されていることと、 臨床所見からSARSではないと診断された。

7月14日、 当所に咽頭ぬぐい液が搬入され、 呼吸器ウイルス分離および細菌検査を行った。接種2日目にCaCo-2細胞にCPEが認められ、 インフルエンザ迅速診断キットで検査したところ、 A型インフルエンザウイルスと判定された。培養上清について0.75%ヒトO型血球を用いてHA試験を行い、 国立感染症研究所から分与された2002/03シーズン用インフルエンザウイルス同定キットを用いてHI試験を行った。その結果、 抗A/New Caledonia/20/99(H1N1)血清(ホモ価 640)、 抗A/Moscow/13/98(H1N1)血清(ホモ価 1,280)、 抗B/Shandong(山東)/7/97血清(ホモ価 1,280)および抗B/Hiroshima(広島)/23/2001血清(ホモ価 1,280)ではいずれもHI価<10であったが、 抗A/Panama/2007/99(H3N2)血清(ホモ価 1,280)に対してHI価 640を示し、 AH3型ワクチン株とほぼ同様の抗原性がみられた。また、 ノイラミニダーゼ(NA)のRT-PCRでN2と判定され、 A型インフルエンザウイルス(H3N2)と同定された。

2002/03シーズンの川崎市におけるインフルエンザの流行は4月で終息しており、 台湾渡航中に感染したものと考えられる。

日本ではインフルエンザウイルスは冬季に流行し、 夏季に分離されることは非常に稀である。しかし、 世界的に見ると、 日本の7〜8月は南半球では冬に相当し、 台湾や香港および東南アジアではインフルエンザウイルスが流行する雨期にあたる。この時期は夏休みもあり、 海外への渡航者が増加する時期でもある。現在、 SARSの流行地域はないが、 再流行する危険性がある。SARSの初期症状はインフルエンザに類似しており、 呼吸器症状を呈する渡航者の検査において、 インフルエンザウイルスとの鑑別が重要であると思われる。

川崎市衛生研究所 清水英明 奥山恵子 平位芳江 小川正之

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