腸管出血性大腸菌O157感染事例−福岡市

(Vol.24 p 266-267)

2003年8月、 福岡市S区を中心に腸管出血性大腸菌O157の散発事例が相次いで発生したので、 その概要について報告する。

2003年8月19日、 S区内の医療機関よりS区保健福祉センターへ、 腹痛、 下痢等の症状を呈した患者の検便を実施したところ、 腸管出血性大腸菌(EHEC)O157(VT1&2)を検出したとの3類感染症発生の届け出があった。福岡市ではこれを契機に8月27日までの8日間で計16事例の本菌感染症の届け出が相次いた。

喫食調査等の結果、 届け出があった16事例中10事例(グループ)については、 S区内の食肉販売店が8月13日〜15日にかけて調理提供した「鶏刺し」、 「砂ズリ刺し」、 「牛タタキ」、 「馬レバ刺し」、 「ボイルホルモン等」のいずれかの食品を喫食していた。これらの10事例(グループ)には相互の関連性はなく、 他に共通する食品や利用施設は見受けられなかった。

S区内の食肉販売店の調理食品等を摂食した10事例(グループ)中、 有症者は9名であった。有症者9名は医療機関を受診し、 うち7名が入院した。有症者の潜伏期間は2〜12日、 症状は腹痛、 下痢(血便)、 嘔吐、 発熱(37℃〜40℃)であった。これら10事例(グループ)のそれぞれの接触者等の検便の結果、 新たに6名のEHEC O157(VT1&2)感染が確認された。また、 当該施設の従業員検便5検体、 参考品(8月23日の鶏刺し等)6検体、 当該施設および有症者宅の井戸水等5検体を検査したが、 当該菌を検出することはできなかった。

8月19日〜22日までに届け出があり、 菌株が入手できた6事例(グループ)の有症者の菌株6株と、 それ以前に届け出があった患者の菌株を対照としてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施したところ、 有症者の菌株6株(レーン1〜6)は同一パターンを示し、 それ以前に検出されたもの(レーン7〜13)とは一致しなかった(図1)。

その後、 10事例(グループ)から分離された有症者を含む接触者等の菌株のうち13菌株についてPFGE法を実施した結果、 同一のパターンが認められた(図2)。

PFGEおよび疫学的調査等の結果に基づき、 今回のEHEC O157(VT1&2)の散発事例は、 S区内食肉販売店で調理提供された食品、 または調理器具等の二次汚染が原因と断定され,行政処分がなされた。

福岡市保健環境研究所・保健科学部門(感染症担当)
尾崎延芳 大庭三和子 武田 昭

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