赤痢菌同定における留意点

(Vol.24 p 212-213)

最近、 海外渡航歴のない赤痢様患者の原因菌としてA群赤痢菌(Shigella dysenteriae )およびC群赤痢菌(S. boydii )という報告が散見される。A群およびC群赤痢菌は、 これまでそのほとんどが輸入例から分離され、 国内例からの分離は稀である。両群赤痢菌は大腸菌と血清学的に関係のあるものが多く、 その確実な同定には大腸菌との区別が重要かつ必須である。ここでは赤痢菌同定の際の留意点について紹介し、 実務者の参考に供したい。

赤痢菌と大腸菌は、 DNA間の相同性から見ると同一グループに分類される。実際、 両者の中間的性状を持つ菌株が認められるだけでなく、 O抗原的にも密接な関連がある。赤痢菌の同定の際はこの点に十分留意することが必要である。

TSI寒天培地とLIM培地等を用いた一次鑑別試験、 ならびに各種生化学的性状試験において、 赤痢菌を疑う性状を示し、 赤痢菌診断用血清に凝集した菌株の場合でも、 菌群・血清型によっては赤痢菌なのか、 それとも赤痢菌類似の大腸菌なのかの鑑別が必須となる。赤痢菌様の大腸菌の多くは、 組織侵入性大腸菌(EIEC)と呼ばれる赤痢菌と同様の病原性を有する菌群に属する。これらの中にはO抗原が赤痢菌と同一、 あるいは一部共通のものがあり、 抗血清による血清学的検査(スライド凝集反応試験)では、 赤痢菌とEIECの区別ができない場合が多い。これまで知られている赤痢菌とEIECの抗原関係を表1にまとめた。A群赤痢菌で6種血清型、 C群赤痢菌で6種血清型がEIEC血清型と同一、 あるいは交叉の抗原関係にある。

このような場合、 表2に示した生化学的性状のうち、 それぞれの菌群・血清型における有用な性状により赤痢菌か否かを判定する。

表3に一部の血清型における確定鑑別性状の要点を示したが、 若干の生化学的性状試験を追加することで正確に赤痢菌の同定ができる。

なお、 表1に示した以外のA群あるいはC群の各血清型抗血清に凝集した菌株の場合も、 表2に示した生化学的性状のうち有用なものを追加試験し、 性状を確認して当該血清型と判定すべきである。

典型的なA群、 B群あるいはC群赤痢菌の性状を有するが、 市販の診断用血清に非凝集の菌株は、 新血清型赤痢菌(本月報Vol.24、 No.1、 7-8参照)の可能性がある。著者は、 これまで報告された新血清型赤痢菌の抗血清を準備しているので、 このような場合は連絡いただきたい。

東京都健康安全研究センター・多摩支所 松下 秀

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