2002年に発生した日本脳炎3事例についての詳報−広島県

(Vol.24 p 152-153)

広島県では2002年に3名の日本脳炎(JE)患者が発生した。今回、 本号で日本脳炎を特集するにあたり注意喚起の意味をこめ、 新しい知見を加え再度報告する(本月報Vol.24、 No.3、 63-64参照)。広島県における過去のJE患者の発生状況は1960年代までは毎年数十名から100名前後の患者が発生していたが、 1970年代以降は急激に減少し、 1990年を最後に昨年まで患者の発生がなかった()。

1例目は広島市在住の89歳女性で、 8月5日に意識障害、 四肢の固縮と38℃台の発熱・嘔吐があり、 受診後そのまま入院し、 8月12日に転院した(表1および本月報Vol.24、 No.3参照)。検査結果は、 日本脳炎ウイルス(JEV)に対するIgM捕捉ELISA法で8月12日採取の脊髄液および9月6日採取の血清がで双方とも陽性であった。また、 RT-PCR法によるJEV遺伝子検出は陰性であったが、 脊髄液からJEVが分離された(表2)。分離ウイルスと標準株JaGAr01とのE蛋白領域2,136〜2,458番目の塩基配列はわずかに1塩基異なるのみであった。

2例目は高田郡在住の77歳女性で、 8月29日に突然の39℃台発熱と嘔吐が出現し、 翌30日に受診、 入院した。患者は9月30日に死亡した(表1および本月報Vol.24、 No.3参照)。検査結果は、 JEV-HI抗体の有意な上昇が認められ(9月2日採取血清がHI抗体価20、 9月9日と12日採取血清がともに同 2,560)、 JEV-IgM捕捉ELISA法でも9月9日と12日採取血清で陽性であった(表2)。

3例目は豊田郡在住の60歳男性で、 8月23日に発病し、 同月26日に入院した。症状は39℃の発熱、 意識障害および全身の倦怠感であったが、 9月13日には回復し退院した(表1)。検査は、 民間の検査機関で8月26日と9月9日採取の血清と髄液についてJEVに対する補体結合反応(以下CF)試験を実施した。その結果、 血清と髄液とも有意な抗体上昇が確認された。また、 9月9日採取の血清について抗体検査を実施したところ、 JEV-HI抗体価1,280以上を保有し、 JEV-IgM捕捉ELISA法でも陽性となり、 脊髄液からJEVが分離された(表2)。

ウエストナイルウイルスに対するIgM捕捉ELISA法では3症例とも陰性であった。以上の結果から、 3症例ともJE患者と診断された。ワクチン接種歴は1例目、 2例目とも未接種、 3例目は不明であった。居住地と養豚場との位置関係は、 表1のごとく1例目は13km、 3例目7.3kmと、 蚊の飛行距離から考えるとやや遠いが、 患者自身の当時の移動に関する情報はない。

JE流行予測調査では毎年7〜8月のブタ血清中に抗JEV-2ME感受性(IgM)抗体を検出しており、 昨年度も7月26日採取のブタ血清で同抗体を検出していた。これらのブタ血清からウイルス分離を実施し、 計2株分離している。今後遺伝子解析等を実施する予定である。

広島県保健環境センター
桑山 勝 高尾信一 福田伸治 島津幸枝 宮崎佳都夫
国立感染症研究所
倉根一郎 高崎智彦 山田堅一郎 根路銘令子 伊藤美佳子
広島県福祉保健部保健対策室
笠松淳也 中村就一 宮脇弘幸
呉市保健所 香川治子 青山範子
国立療養所広島病院 越智一秀
広島県厚生農業協同組合連合会吉田総合病院 原田和歌子
中国労災病院 時信 弘

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