The Topic of This Month Vol.24 No.6(No.280)

腸管出血性大腸菌感染症 2003年5月現在

(Vol.24 p 129-130)

腸管出血性大腸菌(EHEC)による感染症は、 1999年4月から施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」にもとづく感染症発生動向調査において、 全数把握の3類感染症となった。

現在、 diffuse outbreak(広域発生)を迅速に探知する方法の一つとして、 パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)に基づいた菌株解析情報と疫学情報を組み合わせたサーベイランスシステム(パルスネットジャパン)が試行中である。さらに、 米国CDCが運営しているパルスネットを拡大させる計画が進められており、 EHECを含めた感染症の迅速な探知に国際的な規模で対応できる体制が構築されようとしている。

患者発生動向:2002年にはEHEC感染症患者および無症状病原体保有者(以下EHEC感染者)が3,185例報告された(表1)。週別報告数は第16週(4/15〜21)、 第21週(5/20〜26)、 第26週(6/24〜30)に後述の集団発生や広域発生(表3参照)による小さなピークを示し、 夏季の第33週(8/12〜18)を最大ピークとしてその後減少した(図1)。2002年の都道府県別発生状況は人口10万人当たり0.60〜19.68と地域差がみられた(図2)。複数の集団発生があった佐賀(19.68)、 石川(9.41)、 および大規模な集団発生があった栃木(8.96)が上位3県であった。2002年のEHEC感染者は0〜4歳がもっとも多く、 5〜9歳がこれに次いだ。0〜19歳では男性がわずかに多く、 20歳以上では女性が多かった。有症者の割合は男女とも若年層と高齢者で高く(19歳以下で72%、 65歳以上で67%)、 30代、 40代、 50代では50%以下であった(図3)。

EHEC検出報告:地方衛生研究所(地研)から国立感染症研究所感染症情報センターに報告されたEHEC検出数は1996年に3,022と急増したが、 最近は年間2,000前後で推移している(http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html参照)。EHEC感染者報告数(表1)と開きがあるが、 これは、 現在のシステムでは地研以外で検出された菌株情報の一部が地研に届いていないことによる。1991〜1995年はO157:H7が分離株の約80%を占めていたが、 その後はO26、 O111などO157以外の血清型が増加し、 2002年にはO157:H7は53%に低下した(本号3ページ参照)。分離菌株が産生している毒素(または保有している毒素遺伝子)の型をみると、 O157:H7では2001年にVT1&2が大きく増加し(65%)、 2002年もその傾向が続いている(62%)。一方、 O26とO111ではVT1単独が多かった。

2002年のEHEC検出例1,601例中19例に溶血性尿毒症症候群(HUS)が報告された(表2)。うち、 O157が15例(VT1&2が9例、 VT2が6例)、 その他はO111(VT1&2)が2例、 O26(VT1&2)が1例、 OUT(VT2)が1例で、 すべてVT2陽性であった。O157が検出された1,058例の症状は血便が33%、 下痢50%、 腹痛39%、 発熱13%であった。

広域発生:2001年には多地域に流通した食品を原因とする大規模な患者の広域発生が報告された(本月報Vol.23、 No.6特集参照)。2002年も4〜5月にかけて関西地区の焼肉チェーン店でO157:H7の広域発生があり、 患者は2府4県から報告された。この事例では患者と保存牛肉から分離された株のPFGE型が一致した(表3No.3)。

集団発生:2002年に報告された菌陽性者10人以上の事例中(表3)、 食品媒介と推定された事例は3件であった。8月に病院・老人保健施設で発生した事例(No.11)では、 患者123例中9例が死亡した。患者および食品から分離されたO157は2001年に広域流行したO157と同一のPFGE型を示した(本号4ページ参照)。

小学校での大規模集団事例は1996年に多発したが(本月報Vol.19、 No.6参照)、 1997年以降発生は見られなかった。しかし、 2002年には小学校での小規模ないし中規模の集団感染事例が3件報告された。7月に発生した事例(No.8)では、 初発患者周囲のEHEC感染者を漏れなく早期発見するために1万人以上の検査が実施された。

また、 2002年も依然として保育所・幼稚園での集団発生が10件と多く、 うち3事例では簡易プールでの感染が疑われた。保育所等での人→人感染による集団感染予防には、 普段からの職員の手洗い(特にオムツ交換後)、 園児への排便後・食事前の手洗いの指導を徹底するとともに、 夏季にはプールの衛生管理にも注意する必要がある(本号5ページおよびPHLS CDR, Vol.6, Review No.2, 1996参照)。

保育所・小学校等の集団発生では施設内感染に留まらず、 家族への二次感染が報告される事例が多いのが特徴である(表3)。家族内感染による発生の拡大・長期化を防ぐためには、 保護者に対して二次感染予防の指導を徹底する必要がある。

2003年速報:本年5月25日までに診断されたEHEC感染者届出数は279人(5月29日現在)で(表1)、 4月までの発生は少なかったが、 5月に入り第20週〜21週にかけて徐々に増加し、集団発生も報告されている(図1)。EHEC感染症が増加する夏場に向けて一層の注意喚起が必要である。

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