小学校において発生した腸管出血性大腸菌O157集団感染事例−栃木県

(Vol.24 p 134-135)

2002年9月24日、 鹿沼市内のB医療機関から2名の腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7(VT2 産生)感染症の発生届けがあった。翌25日にC医療機関からも1名のEHEC O157の発生届けがあり、 この患者は溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症し入院しているとの連絡を受けた。この2件の発生届けのあった3名はいずれもA小学校の1年生であったことから、 県西健康福祉センターは集団感染の疑いありと判断し直ちに調査に入った。その後、 27日にD医療機関から、 さらにEHEC O157の発生届けがあり、 幼児(3歳)がHUSを発症し入院しているとの連絡を受けた。この患者はA小学校の1年生の患者の家族であり、 10月3日にはHUSおよび脳症のため死亡した。

当センターの行った対応、 調査内容および結果は以下のごとくである。(1)A小学校内での感染の拡大防止を図るため、 24日に消毒や手洗いの励行等の衛生指導を行うとともに、 欠席状況等の調査を行った。(2)25日現在で患者の発生が1年生に限られていたため、 26日に1年生(82名)と教職員(27名)の便検査を実施した。その結果、 新たに1年生6名のEHEC O157陽性者が判明したことから、 30日に2〜6年生(412名)と児童家族の希望者(33名)の便検査を実施したが、 EHEC O157は検出されなかった。(3)A小学校での給食の配膳関係、 動物の飼育内容、 9月の行事内容、 水道関係、 1年生の教室の配置、 および洗面所トイレおよび砂場の検査を実施した。(4)共同調理場の立ち入り調査、 および検査としては、 関係書類の確認、 使用水、 保存食(91検体)の検査、 従業員(43名)の便検査を実施したが、 いずれからもEHEC O157は検出されなかった。(5)事件発生前の行事として、 9月12日に1年生の体験学習(梨狩り)を実施していることから、 体験学習先(梨栽培農家)への立ち入り調査および検査を実施した。当日は徒歩で学校から梨栽培農家へ行き、 1人一切れずつ喫食し、 各自2個の梨を家に持ち帰った。そのため、 梨栽培農家の使用水、 トイレ、 台所および周辺の状況を調査し、 また、 梨狩りの日に収穫された梨、 土壌、 井戸水、 梨木の葉、 家族の便などの検査を実施したが、 いずれからもEHEC O157は検出されなかった。

細菌検査は、 分離培地としてクロモアガーO157培地とCT-SMAC培地を併用し、 36℃24時間培養した。増菌培地はノボビオシン加m-EC培地を用い、 42℃18時間培養した。増菌培養したものは、 保存食、 梨、 梨木の葉、 土壌、 井戸水(メンブランフィルターで濾過したフィルター)であった。培養陽性株6件はクロモアガーO157培地から1件、 CT-SMAC 培地から6件分離された。疑わしいコロニーを釣菌し、 確認培地(TSI培地、 LIM培地、 VP培地、 CLIG培地)で生化学性状を確認した。大腸菌と同定された菌株を121℃15分間処理し、 その抗原液とO157血清を反応させ凝集を確認した。志賀毒素は、 PCR法によりStx 遺伝子を確認し、 すべてVT2産生株であった。患者および菌陽性者10名から分離された菌株は国立感染症研究所の方法により、 制限酵素Xba Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)によって解析した。その結果、 DNAパターン()が一致し、 同一由来株であると考えられた。

症状発現から考察すると、 流行曲線は一峰性を呈しており、 検査結果から単一曝露による感染と推定されたが、 疫学調査あるいは統計処理を行った結果からは、 感染原因および感染経路を特定することはできなかった。

死亡した患者3歳とその家族(1年生の患者)の発症については、 発症日時も近いことから単一曝露と二次感染のいずれもが考えられたが、 発症前の行動や喫食状況など詳細を確認できない点が多く、 今回の調査では特定できなかった。

栃木県県西健康福祉センター
松村京子 大島瑞枝 箕輪正文 郡司泰雄 高岩澄夫 梶田俊行
栃木県保健環境センター 首藤敦子 長 則夫 新堀精一

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