急性高度難聴に関する調査研究(厚生労働科学研究・特定疾患対策研究事業)より得られたムンプス難聴の疫学調査結果

(Vol.24 p 107-109)

はじめに:突発性難聴とムンプス難聴は、 後天的に急性発症し高度難聴をきたす代表的な疾患である。厚生労働省の急性高度難聴に関する調査研究班は、 この両疾患を含む急性発症の高度難聴の全国臨床疫学調査を、 1971〜73年は突発性難聴、 1987年は突発性難聴、 特発性両側性感音難聴、 ムンプス難聴を、 1993年は突発性難聴、 特発性両側性感音難聴、 ムンプス難聴、 免疫異常に伴う難聴を対象として行った。最近では2001年に、 突発性難聴とムンプス難聴を対象として年間患者数を推計した。このデータから、 両疾患とも罹患者数の増加が推定されており、 本報告では、 ムンプス難聴の疫学調査の結果を概説する。

研究方法:急性高度難聴に関する調査研究班は、 疫学調査研究班と共同で、 2001(平成13)年1月1日〜12月31日までの1年間に、 突発性難聴、 ムンプス難聴の2疾患で受療した全患者を対象として、 郵送法による全国調査を実施した。対象診療科は全国病院の耳鼻咽喉科である。まず一次調査として、 2002年1月に全国の2,016病院から規模別に層化無作為抽出した 838病院を対象として(抽出率41.6%、 表1)、 対象疾患の患者の有無と男女別人数を調査した。調査においては依頼文書、 両疾患の診断基準、 返信用のはがきを送付した。期限を過ぎても回答の得られなかった施設に対して、 3月に再度調査を依頼した。その後、 5月に一次調査で「患者あり」と回答した施設を対象として、 患者の臨床的疫学的特性に関する二次調査を実施した。この際、 ムンプス難聴については一次調査で報告された患者全員に対して二次調査票(個人票)の記入を依頼した。その他の調査法、 患者数の推計法等は全国疫学調査マニュアルに従った。ムンプス難聴の診断は、 厚生省急性高度難聴調査研究班が策定した診断基準(表2)により診断を行った。

結果: 500床以上の施設と大学病院は抽出率100%であり、 一次調査回収率も50%以上であった。ムンプス難聴の報告患者数は294人であり、 2001年1年間の全国のムンプス難聴受療患者数(確実例、 準確実例、 参考例の全例)は、 650人(95%信頼区間540〜760)と推計された。この推計患者数を分子、 2001年推計人口を分母として計算した推定受療率は、 人口100万対で5.1であった。

過去の疫学調査と比較した結果を表3に示すが、 過去14年間での人口100万対の受療率、 受療患者数の増大が推定される。

考察:今回報告したデータは、 全国疫学調査の結果であるが、 小児科と耳鼻咽喉科を標榜しているある単一施設では、 100〜500ムンプス罹患に対して1件の難聴発生(0.2〜1.1%)と、 かなり高い罹患率が報告されている。全国疫学調査のムンプス難聴の増大の一因として、 ワクチン接種率の減少があげられる。厚生労働省医薬局のおたふくかぜワクチン供給数は、 1989〜1993年までMMRワクチンとして接種された時期は54万人〜165万人分であったのに対し、 2001年には52万人分となっている。ムンプス難聴は早期治療により聴力改善する症例もみられるが、 多くの症例は高度難聴を呈する。ワクチン接種でのこの高度難聴の予防効果は明らかである。したがって、 厚生労働科学研究による急性高度難聴に関する調査研究班では、 ムンプス難聴の疫学ならびに臨床調査により、 ワクチン接種とムンプス難聴発症の関連について今後も検討を続ける予定である。一方、 ムンプス難聴の診断基準は本研究班が1987年に策定後変更されていない。診断基準の見直しも検討課題のひとつである。

まとめ:急性高度難聴に関する調査研究班は、 疫学調査研究班と共同で、 2001年1年間の全国のムンプス難聴受療患者数の全国疫学調査を行った。ムンプス難聴受療患者数は650人(95%信頼区間540〜760)、 推定受療率は人口100万対で5.1であった。過去のデータは、 受療患者数[1987年:300人(200〜400)、 1993年:400人(300〜500)]、 人口100万人対の受療率(1987年:2.5人、 1993年:3.2人)であり、 罹患者数の増大が推測された。

厚生労働科学研究・急性高度難聴に関する調査研究
主任研究者 喜多村 健(東京医科歯科大学)
分担研究者 中島 務(名古屋大学)

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る