勧奨接種移行後7年間の予防接種実施率の検討とムンプスの現状

(Vol.24 p 106-107)

1995(平成7)年度より定期予防接種は予防接種法の改正により、 従来の義務接種から勧奨接種へと移行したが、 これに伴って予防接種の実施率が低下することは当初より懸念されていた。実施率を低下させないために、 接種を管掌する市町村でも様々な周知方法を講じており、 麻疹については日本小児科医会でも周知を図っている。埼玉県戸田市においては、 主として乳幼児健診の郵送通知の際に予防接種に関するお知らせを同封し、 保護者への周知を図っている。しかしムンプス(流行性耳下腺炎、 おたふくかぜ)、 水痘のように定期予防接種に指定されていない予防接種では、 医学的には効果が期待されることが明らかであっても費用の支出を伴うために、 行政としては積極的にはアピールしにくい。また財政的な事情もあって、 実施費用を自治体が負担すると言うことも容易ではない。したがって、 ムンプス、 水痘の接種率を上昇させることにはかなりの困難を伴う。

表1に3歳児健診における予防接種の実施率の7年間の推移を示した。3歳児健診は戸田市では3歳6カ月で実施している。ツ反、 BCG、 ポリオおよびDPT 1回についてはいずれも97%を超えており、 良好な接種実施率と考えられる。しかし、 DPTのI期終了まではまだ80%程度にすぎず、 回数の多いこともあってか、 十分ではない。麻疹については1999(平成11)年度から90%を超えており、 もう少しで95%に達すると考えられる。風疹についても1歳8カ月時点よりはおおむね30%上昇している。麻疹・風疹については1歳8カ月〜3歳までの接種がかなりあることになり、 時期を早めるような周知が今後とも必要と思われる。定期予防接種に含まれていない水痘、 ムンプスについては、 1998(平成10)年度から調査を行っており、 それぞれ30%程度の接種実施率であった。有料であることや、 小流行が断続的に続いていることもあって、 罹患も少なくなく、 接種の実施率はなかなか上昇しない状況である。

当センターでは外来診療も行っている。2000(平成12)年度に外来でムンプスと診療した子どもたちの数と予防接種状況を調査したが、 1年間に 137名のムンプスと考えられる患児(すべてが血清学的に証明されているわけではない)が受診し、 うち予防接種を受けていた児は22名(16%)であった。患児は通年発生しており、 受診のない月はなかった。また137名のうち、 1歳8カ月未満は2名(2%)、 3歳6カ月未満は21名(15%)であり、 3歳6カ月以降6歳までの患児が85名(62%)と半数以上を占めていた。また137名のうち、 家族内で二次的に発症した(同胞発症例)と考えられる16名では、 予防接種の既往は1名のみであった。

これらのことから、 やはり3歳までにムンプスの予防接種を行うことにより、 実際に罹患する人数が減少することが期待できることは明らかである。わが国ではムンプスのワクチンは麻しん・おたふくかぜ・風しん混合(MMR)ワクチンに含まれていた時期を除いて、 無料ではない。表1にも示したように風疹の接種率が十分ではないこと、 一方麻疹の接種率は満足すべき状況にあることを考えあわせると、 安全なMMRワクチンの開発とその実施こそが、 ムンプスのみならず、 麻疹、 風疹も含めた有効な対策であることは確かであると考えられる。

戸田市立医療保健センター・健康推進室 平岩幹男 久保田千鶴 戸賀崎久美

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