中国旅行での赤痢菌の混合感染事例−松山市

(Vol.24 p 90-91)

2002年11月2日に松山市内の医療機関より、 70歳の男性を細菌性赤痢と診断したとの届け出があった。患者は10月下旬から7日間の日程で中国ツアー(北京、 敦煌、 トルファン、 ウルムチ)に参加していた。旅行中の10月29日から下痢、 腹痛を発症し、 帰国後、 10月30日に血便が認められたため、 医療機関を受診した。検便の結果、 11月2日に赤痢菌(Shigella flexneri 1a)が分離された。届け出患者は旅行中の感染が考えられること、 このツアーでは旅行中、 宿泊、 食事、 行程等はすべて同じであったことから、 添乗員を含む27名を対象に健康調査を実施した。

参加者のうち、 松山市内在住者21名は当保健所で、 隣接する町在住者6名は県松山中央保健所で調査した結果、 旅行中に25名が下痢を発症していたことが判明し、 帰国後も下痢、 発熱等の症状を有していたものが多かった。

11月2日〜3日、 届け出患者と医療機関を受診した2名を除く25名の検便を実施した結果、 5名から赤痢菌が分離された。11月6日、 医療機関を受診した1名についても、 細菌性赤痢と診断され、 新たに保健所に届け出られた。届け出患者を含む7名から8株の赤痢菌が分離され、 患者家族の健康調査と検便を行ったが、 感染者は確認されなかった。

旅行中、 参加者は現地でペットボトル入りミネラルウォーターを購入し、 生水は飲用していなかった。ホテルや飲食店での食事は主に加熱された料理、 野菜サラダ、 果物類で、 現地の農家訪問では、 果物や焼き菓子を提供されていたが、 患者の感染源となった施設や食品等は特定されなかった。

分離された赤痢菌8株は、 血清型別試験によりS. flexneri 4a 4株、 S. flexneri 1a 1株、 S. dysenteriae 2 2株およびS. sonnei  1株と判定された。S. flexneri 4aは型血清ではIV、 群血清は7,8に凝集が認められた。患者1名からは、 S. sonnei S. d senteriae 2の2種類が分離された。S. dysenteriae 2の生化学的性状は乳糖(−)、 白糖(−)、 運動性(−)、 ガス(−)、 インドール(+)、 リジン(−)、 マンニット(−)で定型的な赤痢菌の性状を示したが、 病原大腸菌免疫血清混合7、 O112acに凝集が認められ、 PCR法でipa Hおよびinv E遺伝子を確認した。

センシディスク法(BBL)で、 12種類の抗菌薬(ABPC、 CTX、 KM、 GM、 SM、 TC、 CP、 CPFX、 TMP、 NA、 FOM、 ST)に対する感受性試験を実施した。S. flexneri 1aはABPC、 SM、 TC、 TMP、 NA、 STの6剤に、 S. flexneri 4aはABPC、 SM、 TC、 CP、 TMP、 NA、 STの7剤に、 S. dysenteriae 2はTCに、 S. sonnei はSM、 TC、 TMP、 STの4剤に耐性を示した。

制限酵素Xba Iを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法による遺伝子パターン型別では、 S. flexneri 4a 4株とS. dysenteriae 2 2株はそれぞれほぼ同一のパターンを示しており()、 このことから同一の菌種が分離された患者は同じ感染源に曝露されたことが推察された。今回の事例は同一集団から異なる赤痢菌種が同時に分離された混合感染が考えられた。

松山市保健所
林 恵子 廣方ゆり 重松光也 上田哲郎 渡邉郁雄 篠原正史 西尾 功
尾崎陽子 玉乃井敏夫 近藤弘一 中村清司 芝 信明 竹之内直人
愛媛県松山中央保健所
上田 昭 新山徹二 松前明彦 松田 均 大瀧 勝
愛媛県立衛生環境研究所
井上博雄 大瀬戸光明 田中 博 青木紀子

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る