風疹感受性調査
  〜2001年度感染症流行予測調査より〜

(Vol.24 p 57-58)

はじめに:感染症流行予測調査は、 1962年に伝染病流行予測調査事業として、 予防接種事業の効果的な運用と長期的視野に立った総合的な疾病の流行を予測することを目的に開始された。風疹の感受性調査は1971年に開始され、 1984、 1985、 1998年を除いて毎年実施されている。

調査対象:2001年7〜9月、 埼玉、 新潟、 長野、 三重、 島根、 山口、 高知、 福岡、 沖縄県において原則として1地区を選び、 0〜4、 5〜9、 10〜14、 15〜19、 20〜24、 25〜29、 30〜34、 35〜39、 40歳以上の9年齢群について男女各20名ずつ、 合計360名、 全国で計3,240名の健常者を対象とした。

調査方法:対象者血清中の風疹に対する赤血球凝集抑制(HI)抗体価を測定した。検査にあたっては、 国立感染症研究所から配布した標準血清が検査ごとに同時に測定され、 標準血清の抗体価が標準値±2倍以内を示すこととした。HI抗体価は8以上を陽性とした。

調査結果:風疹HI抗体価の測定結果が報告されたのは、 女性1,634名、 男性1,629名、 合計3,263名であった。ワクチン接種歴の記載がある男女1,350名中(女性739名、 男性611名)、 接種歴有は、 女性479名(65%)、 男性363名(59%)であった。

1)年齢別抗体保有率:風疹HI抗体価が8以上の抗体保有率は82%(女性86%、 男性78%)であった。抗体陽性率は男女とも0〜1歳が最も低く、 4〜5歳頃まで上昇し、 その後は上下動を繰り返しながら12歳まで漸増した。14〜15歳は、 男女ともにその前後の年齢群と比較して相対的に低い陽性率であった。特に15歳女性の陽性率は、 54%と著しく低かった(図1)。若年層では、 男女間の抗体保有状況に大きな差が見られなかったが、 18歳以上では女性で平均94%、 男性で平均79%と男性で低かった。

2)地域差:風疹流行には地域差があり、 また、 予防接種に対する取り組みが地域によって異なることから、 風疹抗体保有状況は地域によって異なることが知られている。沖縄県(74%)と福岡県(76%)の抗体陽性率は全国平均よりやや低く、 長野県と高知県はいずれも85%以上と高い抗体陽性率を示した。

3)予防接種歴別抗体保有率:男女合わせた年齢別ワクチン接種率は、 0〜4歳群58%、 5〜9歳群83%、 10〜14歳群79%、 15〜19歳群69%と、 5〜9歳群が高かった。20歳以降のワクチン接種率は、 女性で73%、 男性は女性の半分であった。ワクチン接種群の平均抗体陽性率(94%)は、 非接種群のそれ(65%)より高かった。抗体価32以上で見るとワクチン接種群の陽性率は、 抗体価8以上よりどの年齢群でも約10%低値であった(図2)。一方、 非接種群の抗体獲得は、 10〜14歳まで加齢とともに上昇していた。抗体価32以上で見ても抗体価8以上とほぼ同レベルの陽性率であり、 自然感染により獲得した免疫の方がワクチンにより獲得した免疫よりも強力で、 高い抗体価を保有していた。19歳までは男女とも同じ傾向であったが、 20〜39歳男性の抗体陽性率は、 ワクチン接種の有無にかかわらず60〜70%と低かった。

考察:1994年10月の予防接種法の改正により、 男女の年少児を対象とした風疹ワクチン接種が導入され、 患者の大幅な減少が見られた。特に1999年以降全国的大流行は見られていないが、 抗体保有率や感染症発生動向に地域差が見られることから、 地域の流行には注意が必要である。特に、 2001年度調査の14〜15歳の女性は抗体保有率が低く、 緊急の啓発活動が望まれる。また男性の抗体陰性者の蓄積は、 風疹流行を引き起こし、 ひいては同世代の妊娠可能年齢の女性に感染をもたらす危険性があるので、 その理解を深めさせ、 積極的にワクチン接種を受けることを推奨することが望まれる。自然感染の機会が減少すると感染年齢を押し上げると言われている。今後、 成人女性、 および男性の抗体保有状況の監視が重要である。また、 大流行がなくなったために免疫のブースター効果がなくなり、 ワクチンにより賦与された抗体の持続期間が新たに問題となると考えられる。年少児のワクチン接種後の陽転率とその抗体の持続期間の把握、 妊婦の感染および再感染による先天性風疹症候群発生防止等、 解決すべき問題点が残っている。風疹対策は、 麻疹対策計画とタイアップして考えることが効果的であろう。

国立感染症研究所・ウイルス第三部
    〃    感染症情報センター

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