風疹ワクチン接種率の推移

(Vol.24 p 55-57)

風疹ワクチンは、 わが国では1976年から接種が開始され、 1977年8月から女子中学生に対する定期接種が始まった。1989年4月からは生後12〜72カ月児への麻疹ワクチン定期接種時に麻しん・おたふくかぜ・風しん混合(measles mumps rubella, MMR)ワクチンを選択してもよいことになった。しかし、 MMRワクチンはおたふくかぜワクチン株による無菌性髄膜炎の多発により1993年4月に中止となった。その後、 1994年の予防接種法改正に伴い1995年4月からは風疹の流行そのものをおさえるために、 生後12〜90カ月未満の男女(標準として生後12カ月以上36カ月以下)に風疹ワクチンが接種されることとなった。また以前に風疹ワクチンあるいはMMRワクチンを受けたことがない者に対する経過措置として、 (1)1995年度に小学校1〜2年生でかつ生後90カ月未満の者、 (2)1996〜1999年度に小学校1年生、 (3)2003年9月30日までの間は、 1979年4月2日〜1987年10月1日に生まれた12歳以上16歳未満の男女(標準中学生)、 が接種の対象となり、 接種方法は、 これまでの集団接種から個別接種に変更された。ところが、 風疹ワクチン経過措置分(3)の接種率が極めて低く、 このままこの年代の小児が成人し、 妊娠時に風疹の流行がおこると先天性風疹症候群(CRS)多発の可能性があることが危惧されていた。2001年11月7日、 予防接種法一部改正により、 2003年9月30日までの暫定措置として1979年4月2日〜1987年10月1日までに生まれた男女(2003年3月1日時点、 15歳5カ月〜23歳10カ月)全員が経過措置の対象となった(図1)。しかし、 この経過措置の一部改正は広く知られていないため、 十分な広報活動、 対象者への接種勧奨をすることが重要である。

風疹ワクチン接種率:厚生労働省が市町村からの報告を受けて算定している風疹ワクチン実施率は、 標準的な接種年齢期間の総人口を総務庁統計局推計人口(各年10月1日現在)から求め、 これを12カ月相当人口に推計した数(各年度に新規に予防接種対象者に該当した人口)を対象人口とするのに対し、 実施人口は各年度における対象者全体の中の予防接種を受けた人員であるため、 実施率は100%を超える場合がある。1995年度〜2000年度の経過措置分については、 各年度の経過措置対象者の総人口を総務庁統計局推計人口(各年10月1日現在)から求め、 これを12カ月相当人口に推計した数を対象人口とし、 実施人口は、 各年度における対象者全体の中の予防接種を受けた人員である。また、 2001年度については、 11月7日に予防接種法が一部改正になり対象者数が変更になったため、 対象人口の計算式が変更になった。経過措置対象者の総人口を総務庁統計局推計人口(各年10月1日)から求め、 これから1995〜2000年度の被接種者数を引いた数を12カ月相当人口に推計した数である。この計算式で求められた予防接種実施率は表1に示す通り、 定期分(生後12〜90カ月未満)は高率であるのに対して、 経過措置分の実施率は1994年の予防接種法改正以降急激に減少し、 2001年度は38.6%と最も低い(図2)。

2001年度感染症流行予測調査から得られたワクチン接種率は、 女性64.8%、 男性59.4%であった(本号5ページ参照)。男女合わせた接種率は、 1〜4歳群63.3%、 5〜9歳群83.3%、 10〜14歳群79.5%、 15〜19歳群69.0%、 20〜24歳群57.6%、 25〜29歳群55.1%、 30〜34歳群69.0%、 35〜39歳群59.7%、 40歳以上群24.2%で、 経過措置対象群の接種率は低かった。

また、 厚生科学研究医薬安全総合研究事業・安全なワクチン確保とその接種方法に関する総合的研究・平成13年度研究報告書(平成14年3月)「大阪府下における予防接種の実施成績に関する研究(村上徹二ら)」によると、 2001年度大阪府の風疹ワクチン接種率は定期分79.6%、 経過措置分23.2%で中学生の接種率は低値であったと報告されている。

風疹感受性人口の推計:2001年度感染症流行予測調査より得られた抗体保有率と、 2000年の国勢調査から推計された2001年10月1日現在人口から風疹感受性人口を推計したところ、 図3に示すように、 0〜39歳までの女性における風疹感受性人口は推計 350万人以上であり、 このうち20代、 30代女性の風疹感受性人口は推計70万人以上であった。男性は女性より極めて多く、 20代、 30代の男性の風疹感受性人口は推計450万人以上であった。2001年度時点の経過措置対照群である14〜22歳までを年ごとに示すと(図4)、 14、 15歳の感受性者が多く、 15歳女性の感受性者は特に多い。このまま低いワクチン接種率が維持されることは問題である。

風疹ワクチン接種率は生後12〜90カ月未満の定期分では高く、 風疹の流行そのものは大幅に抑制されている。しかし、 経過措置分の接種率は極めて低く、 年々減少傾向にある。このまま流行が抑制され、 経過措置対象者の接種率が低いままで推移すると、 感受性者はそのまま感染を受けずに蓄積し、 ひとたび流行がおこればこの年代の患者数が多くなるとともにCRS の多発が危惧される。風疹の流行が抑制されている今、 経過措置終了の9月30日までに対象者への風疹ワクチンの徹底が望まれる。

国立感染症研究所・感染症情報センター 多屋馨子 新井 智 岡部信彦

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