公衆浴場等におけるレジオネラ属菌感染防止対策

(Vol.24 p 35-36)

昨年(2002年)の夏、 新設の大型公衆浴場を発生源とするレジオネラ症の集団発生事例が相次いで発生し、 厚生労働省では、 公衆浴場等の適切な衛生管理の周知徹底と監視指導の強化を図っているところである。これらの事例におけるレジオネラ症発生と近年の入浴設備の状況とは、 相当程度の因果関係があることは否めない。

近年の入浴施設では、 湯水の節約を行うため、 レジオネラ属菌の供給源となりやすい濾過器を中心とする設備、 湯水を再利用するため一時的に貯留するタンクおよびそれらの設備をつなぐ配管を伴い、 複雑な循環系を構成することが多くなっている。また、 温泉水を利用する設備もますます増加し、 浴室内では湯を豊富にみせるための演出や露天風呂、 ジャグジーや打たせ湯の設置など様々な工夫により、 入浴者を楽しませる設備が付帯されるようになってきた。

これらの入浴施設は、 衛生管理および構造設備上の配慮が欠けていると、 レジオネラ属をはじめ微生物の繁殖の原因になりやすく、 また、 循環水の微粒子(エアロゾル)を通じてレジオネラ属菌感染の原因ともなりやすい。これまでのレジオネラ症の集団発生事例を踏まえると、 原湯または循環濾過水を供給することにより溢水させ、 塩素消毒等で浴槽水を清浄に保つことが必要だが、 それだけで十分なレジオネラ症の防止対策とはならない。

入浴施設では、 常に入浴者の体表等に由来する有機質が補給され、 これらを栄養源として増殖する微生物が侵入すると、 濾過器の濾材表面と壁面はもちろん、 浴槽や循環配管の内壁、 配管の継ぎ手などに定着して増殖する。その菌体表面に生産された大量の多糖類は生物膜を形成し、 レジオネラ属菌などの病原微生物も生物膜に埋もれて増殖するため外界からの不利な条件(塩素剤等の殺菌剤)から保護されている。また、 レジオネラ属菌が宿主とするアメーバには、 殺菌剤の負荷をかけると栄養体形からシストを形成し、 抵抗性を示すようになるものもあるので、 レジオネラ属菌の駆除には浴槽水を単に塩素剤等で消毒すれば良いというものではなく、 常にその支持体となっている生物膜の発生を防止するための措置を行うこと、 さらに生物膜を監視し、 生物膜が形成されれば、 その除去を行うことが必要となる。生物膜は、 また、 循環系だけに発生するわけではない。宮崎県日向市の事故では、 温泉水を一時的に貯留する設備が汚染され、 その熱殺菌が不十分であったために供給系の湯から12,000cfu/100mlのレジオネラ属菌が検出されている。

浴室においては、 エアロゾルの発生をできるだけ抑え、 汚染された湯水による感染の機会を減らすことも重要である。

厚生労働省では、 過去に「新版レジオネラ症防止指針」の他、 各営業者にパンフレットの配布、 入浴施設の衛生管理の基準である「衛生等管理要領」にレジオネラ症防止対策を追加するとともに、 「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止マニュアル」の公表を行ってきたところであるが、 公衆浴場を発生源とする発生事例が後を絶たないことから、 全国の都道府県等に「緊急一斉点検」の実施を通じて、 個別事業者に直接衛生管理が不十分な点を指導するよう通知するとともに、 各自治体が行う営業者向けの講習会への支援、 監視指導を行うための機器等に対する補助金の交付を行った。また、 これまでの集団発生事例に鑑み、 営業許可に際してレジオネラ症発生防止の観点から十分に審査し、 営業の停止および許可の取消といった行政処分および行政指導を行う際にも明確な根拠を持って対応できるよう、 「条例指針」を作成し、 各都道府県に条例にレジオネラ症防止対策を盛り込むなど積極的な取り組みをするようお願いしているところであり、 現在、 多くの都道府県で条例改正等の作業が進行、 予定されているところである。

それ以外にも、 直接、 監視指導にあたっている保健所職員を対象に2002年の9月に「全国レジオネラ対策会議」を開き、 保健所職員の研修を行うとともに、 レジオネラ肺炎の病勢の進行が早く、 医療機関への受診・診断が遅れ、 抗菌薬療法が間に合わないと死亡するケースもある(致死率は60〜70%、 間に合えばおおよそ10〜20%の致死率)ことも踏まえ、 各自治体に対して、 レジオネラ症発生またはそれを疑わせる情報に接した場合(感染症法の届け出は確定後)には、 感染の拡大を防止するため感染源に対する措置、 医療機関等において患者の早期の発見や適切な治療が行われるよう速やかな情報提供とともに、 事態発生に備え、 地域の医療機関とも協議して検査体制を整備するよう求めている。

いずれにせよ、 各都道府県等と協力して、 衛生指導、 営業者へ周知徹底させることでレジオネラ症発生防止対策の推進を図っているところである。

なお、 公衆浴場等におけるレジオネラ属菌感染防止対策は、 厚生労働省のホームページ(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/legionella/index.html)に公表されているので、 ご参照ありたい。

厚生労働省におけるこれまでの入浴施設におけるレジオネラ対策の経緯

1999(平成11)年11月 「新版レジオネラ症防止指針」策定
2000(平成12)年3月 静岡県掛川市の温泉利用の入浴施設で23人感染、 2人死亡
2000(平成12)年6月 茨城県石岡市の総合福祉センター内の入浴施設で、 疑いのある者を含め45人感染、 3人死亡
2000(平成12)年7月 愛知県名古屋市の大学付属病院の24時間風呂で1人感染・死亡
2000(平成12)年8月 レジオネラ症防止対策に関するパンフレットを作成し、 公衆浴場、 旅館等に配布
2000(平成12)年12月 公衆浴場における衛生等管理要領等の改正
  (1)水質基準等に関する指針の策定
  (2)公衆浴場、 旅館業における衛生等管理要領の改正
2001(平成13)年9月 「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」(具体的な管理方法等のマニュアル)公表
2002(平成14)年1月 東京都板橋区の銭湯で入浴中に意識を失って浴槽水を飲んだ77歳の男性が死亡
2002(平成14)年7月 宮崎県日向市の温泉利用の入浴施設で、 疑いのある患者を含め295人感染、 7人死亡(2002年9月15日:宮崎県発表)
2002(平成14)年8月 鹿児島県薩摩郡東郷町の温泉利用の入浴施設で、 因果関係は不明だが、 疑いのある患者を含め7人感染、 1人死亡(2002年9月17日:鹿児島県発表)
2002(平成14)年9月 レジオネラ症患者発生時における(1)感染源の特定および営業(使用)停止措置の早期実施、 (2)医療機関等への迅速な情報提供による感染者の早期発見など感染拡大防止策について(結核感染症課長・生活衛生課長連名通知)
2002(平成14)年9月 循環式濾過装置を使用している大型入浴施設等発生リスクが高いと思われる入浴施設の緊急一斉点検の実施について(生活衛生課長通知)
2002(平成14)年9月 保健所職員等を対象とした「全国レジオネラ対策会議」の開催
2002(平成14)年10月 公衆浴場法および旅館業法等に基づく条例等にレジオネラ症防止対策を追加する際の指針について(健康局長通知)

厚生労働省健康局生活衛生課

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る