循環濾過式浴槽水が原因と推定されたレジオネラ症集団発生事例−鹿児島県

(Vol.24 p 31-32)

2002年8月13日〜14日にかけて鹿児島県薩摩郡東郷町の温泉施設Y館を利用した長崎県在住の男性(63歳)がレジオネラ症と診断され、 8月20日に死亡した。この男性は、 潜伏期間内において他の温泉施設等の利用がなかったことから、 Y館が原因施設である可能性が疑われた。

Y館は、 8月初旬に仮オープンして9月には全館オープンを控えており、 温泉利用者は延べ約1万1千人に及んでいたため、 感染の拡大が危惧された。

当県では8月23日Y館の温泉水(ナトリウム-炭酸水素塩泉)7検体を採水して、 レジオネラ属菌の検査を行い、 8月30日には最も多い浴槽水で105個レベルのレジオネラ属菌を確認した(表1)。このほとんどがLegionella pneumophila (培養とPCRで確認)であり、 血清群(SG)別では、 検出された浴槽水すべてからSG1が認められ(表1)、 またSG1はどの浴槽水からも優位に検出された。

温泉水の循環は、 大浴場、 イベント湯、 露天風呂、 歩行湯それぞれに単独の循環濾過式装置が設置されており、 採水時の遊離残留塩素濃度は、 イベント湯が0.3mg/lであったが、 他の浴槽水はすべて0.2mg/l以下であった。温度は、 浴槽水が35.9℃〜41.4℃で、 貯湯水は57.8℃であった。このことから、 イベント湯については塩素の消毒効果が認められたこと、 家族風呂は掛け流し式であること、 貯湯水は60℃近い温度であったことなどから、 レジオネラ属菌が検出限界未満であったと推察された。

なお、 ヘアーキャッチャー(ふきとり)、 配管・給湯口のバイオフィルム(ふきとり)、 濾材等からもレジオネラ属菌が分離されており、 浴槽水同様にSG1 が優位に検出された。

一方、 アメーバの検査(配管等のバイオフィルムおよび濾材)については、 国立感染症研究所に依頼して陽性が確認された。

この結果を踏まえ、 当県では管轄保健所、 医師会等を通じ、 県民にレジオネラ症についての注意を喚起すると同時に、 Y館を利用して肺炎症状等を呈している患者について、 当センターにおいても行政検査として尿中抗原検査を実施した。

9月2日〜9月19日まで延べ140件のレジオネラ尿中抗原検査(Biotest、 EIA法)を実施して(尿の限外濾過による濃縮は実施しなかった)、 うち5名が陽性を示した(すべて50歳以上の男性)。また、 医療機関が実施した血清抗体価検査で2名が陽性であり、 死亡した男性と福岡県在住の男性を含め、 合計9名の感染者が確認された。

感染者9名からレジオネラ属菌は分離されなかったため、 パルスフィールド・ゲル電気泳動等の検査で温泉施設Y館との因果関係は証明できなかったものの、 死亡した男性の剖検肺の直接蛍光抗体法からL. pneumophila SG1で陽性の菌体が認められた(琉球大学第一内科で実施)ことと、 浴槽水からL. pneumophila SG1が優位に検出されたことから温泉施設Y館が原因施設である可能性が疑われた。

Y館(東郷町)は、 原因究明対策委員会を設置して検討、 検査を重ね、 従来の循環濾過方式から掛け流し式に変更して、 11月30日に再スタートした。

当県は、 温泉利用の公衆浴場施設数が全国で最も多いことなどから、 泉質に関係なく消毒効果が認められる消毒方法およびレジオネラ属菌が繁殖しにくい配管、 濾材等の研究がなされることを期待するとともに、 患者の早期診断のためにも、 簡易な検査方法の普及が強く望まれる。

今後、 医療機関、 検査機関、 行政の各部門が連携を密に図るとともに、 温泉施設管理者のレジオネラ感染症に対する意識の向上が、 新たな感染を防止する上で最も重要であると考えられる。

最後にアメーバの検査を実施していただいた国立感染症研究所、 剖検肺からの直接蛍光抗体法を実施していただいた琉球大学第一内科に深謝致します。

鹿児島県環境保健センター
吉國謙一郎 中山浩一郎 本田俊郎 新川奈緒美 有馬忠行 湯又義勝 伊東祐治

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