レジオネラ症の検査法

(Vol.24 p 29-29)

レジオネラ症とは:レジオネラ症はグラム陰性細菌のレジオネラ属菌による感染症で、 その病型は肺炎型(レジオネラ肺炎)と感冒様のポンティアック熱とがある。1976年に米国フィラデルフィアで開催された在郷軍人(The Legion)大会における集団肺炎の起因菌として、 レジオネラ属菌の基準種であるLegionella pneumophila が新科(Legionellaceae )新属新種として命名された。現時点で、 48種ものレジオネラ属菌が同定されている。その多くのものに病原性があると考えられているが、 報告される起因菌の大多数はL. pneumophila である。

レジオネラ肺炎は、 臨床症状では他の細菌性肺炎との区別は困難である。発熱、 全身性倦怠感、 食欲不振、 筋肉痛などの症状に始まり、 呼吸困難、 咳嗽、 喀痰、 胸痛などの呼吸器症状が見られるようになる。傾眠、 昏睡、 幻覚、 四肢の振せんなどの中枢神経系の症状が出現することもある。胸部X線所見では肺胞性陰影であり、 その進行は速い。患者の8割以上が男性で、 また、 8割以上が50歳以上の中高年者である。喫煙者、 大酒家、 基礎疾患を有することなどはレジオネラ症の危険因子となる。β-ラクタム系やアミノ配糖体系抗菌薬の無効、 発病前2週間の旅行歴(特に入浴施設の利用)がないかどうかは診断の参考になる。

検査法:レジオネラ属菌は通常の細菌検査では培養不能なので、 レジオネラ症の疑いがあるときは、 専用の検査を行う必要がある。本菌はバイオセーフティー・レベル2であり、 検体はP2実験施設で取り扱う。

レジオネラ症の検査には、 尿中抗原検出、 培養、 血清抗体価の測定およびPCR法がある。酵素抗体法による尿中抗原の検出は特異性が高く簡便迅速で、 感染早期から陽性となるため、 急速に普及してきた。L. pneumophila あるいは、 その中でも血清群1を4時間で検出できる。さらにイムノクロマト法のキットを用いれば、 L. pneumophila 血清群1に限るが15分で検出できる。尿中抗原量は病勢の推移とほぼ対応し、 回復につれ減少する。

喀痰、 肺組織、 胸水、 血液などからの菌の分離にはレジオネラ専用の培地(BCYEα、 あるいはそれに抗菌薬を含んだもの)を用いる。雑菌を除去するため、 検体の前処理として、 酸処理および熱処理を行うと、 レジオネラ属菌の検出率を上げるのに有効である。尿中抗原検出法の普及により、 培養法による陽性率が低下傾向にあるが、 感染源の解明など、 疫学的に見て、 起因菌の分離は重要である。レジオネラ専用培地上で、 特有の灰白色の湿潤集落を形成し、 血液寒天培地では生育しないとき、 レジオネラ様菌であると考えられる。市販の抗血清により、 L. pneumophila 血清群1〜6、 L. micdadei L. dumoffii L. bozemanii L. gormanii の同定が可能である。また、 L. pneumophila 血清群7〜15に対する抗血清も、 研究用試薬として入手可能である。DNA-DNAハイブリダイゼーションキットを用いれば、 L. pneumophila など25菌種の同定が可能である。

血清抗体価の測定法には、 間接蛍光抗体法およびマイクロプレート凝集法がある。L. pneumophila 血清群1に対する抗体価のみがふつう測定されているのが現状である。単一血清で、 間接蛍光抗体法では256倍以上、 マイクロプレート凝集法では128倍以上、 ペア血清(1週間以内の急性期血清と、 間接蛍光抗体法では3〜6週後、 マイクロプレート凝集反応では2〜3週の回復期血清)で4倍以上の上昇で、 かつ回復期血清がそれぞれ128倍、 64倍以上であったとき、 陽性と診断される。血清抗体価の測定は従来から行われてきた診断法だが、 診断までに日数がかかる。したがって、 レジオネラ症が疑われた場合、 喀痰からの培養を行うとともに、 尿中抗原の検出による迅速診断を行い、 それらの検査で陽性とならなかった場合に、 ペア血清による抗体価の検査を行うとよい。

PCR法は陽性率が高く、 きわめて有用な方法であると考えられるが、 精度管理の問題等もあり、 本症の検査においては現在のところまだ一般的ではない。

感染源の特定には、 環境分離株と患者分離株の同一性を明らかにすることが必要だが、 そのための分子疫学的手法としては、 パルスフィールド・ゲル電気泳動法が有用である。

国立感染症研究所・細菌第一部 前川純子 倉 文明

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