インド旅行者下痢症から検出されたVibrio cholerae O139−横須賀市

(Vol.23 p 315-315)

わが国におけるVibrio cholerae O139の検出事例は1993年4月、 埼玉県の事例をはじめとして1997年9月(関西空港)までに12事例が報告(本月報Vol.19、 No.5、 1998参照)されているが、 2002年10月、 横須賀市では該菌による初のコレラ患者を確認したので、 その概要を紹介する。

症例は10月16日〜10月23日までの間、 インド(ニューデリー、 ベナレス、 アグラ、 ジャイプールなど)を旅行した23歳・女性の下痢症例である。患者は10月18日、 発熱(38℃)、 腹痛、 嘔吐(2〜3回/日)、 手足のしびれ、 倦怠感、 食欲不振のため、 翌日19日、 現地の医療機関を受診した。10月20日、 食欲不振は軽快したものの、 倦怠感は残り、 水様下痢(2〜3回/日)を呈し始めた。10月23日、 水様下痢が1日に20回以上となり下痢症状は悪化した。10月24日、 帰国後も水様下痢が続き症状は軽減しなかったため市内医療機関を受診し、 糞便の細菌検査、 血液検査、 および投薬治療を受けた。10月28日、 便性状は軟便(2〜3回/日)となり、 下痢症状は軽快した。

分離菌の同定は、 市内医療機関で分離された白糖分解性のコレラ菌を疑う菌株が当所に送付され、 CT遺伝子の保有、 血清型、 および生化学的性状試験などを実施した結果、 該菌はマンノース分解性のVibrio cholerae O139(CT+)と同定された。

該菌はその血清型から1992年10月にインド南部のマドラス、 ベロレ地方で流行したO139(CT+)と同一の新型コレラ菌と思われたが、 vibriostatic agents O/129 (150μg)、 およびスルファメトキサゾール/トリメトプリム(ST)両薬剤に対し感受性を示す菌株であったことから、 1992年、 インドで流行の両薬剤耐性菌株と異なることが示唆された。また、 O/129 (150μg)およびST両薬剤に対し感受性を示す菌株は1993年7月、 長野県に来訪のネパール人由来のO139(CT+)菌株として既に報告(本月報Vol.14、 No.10、 1993)されている。これらO139(CT+)菌株間の異同についてはPFGE等を用いた分子生物学的解析による検討も必要と考えられる。

なお、 患者と同居の家族4名については下痢症状もなく、 また、 家族4名から該菌は検出されなかった。

以上、 海外旅行者(インド・ネパール、 バングラデシュ、 タイなど開発途上国からの旅行者等)が持ち込む新型コレラ菌O139(CT+)に代表される新興・再興感染症については今後ともさらに監視が重要と思われる。

横須賀市衛生試験所 蛭田徳昭 天野 肇 増山 亨

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