腸管出血性大腸菌O138による感染事例−宮城県

(Vol.23 p 322-322)

市販血清で型別が判定できない腸管出血性大腸菌(EHEC)感染事例を経験したので概要を報告する。

2002(平成14)年8月7日、 宮城県内の検査機関からVero毒素の産生は確認できたが、 市販混合1〜8血清(デンカ生研)では血清型が判定できないEHEC菌株ついて、 当センターへ血清型別精査の依頼があった。市販血清と他研究機関からの分与抗血清で血清型別試験を行った結果、 宮城県仙台家畜保健衛生所より分与されたO138抗血清に凝集したことからEHEC O138と判定した。

菌が分離された患者は2歳女児で、 7月27日より腹痛・下痢の症状を呈し、 8月2日医療機関を受診した。患児の家族のうち弟が軟便であった以外、 他は下痢・腹痛等の症状を示していなかったが、 検便の結果、 4名からEHEC O138:H19が検出された。

感染源および二次感染等の調査のため、 環境のふきとり検査と家族等からの聞き取りを行ったが、 感染源は特定できず、 また家族以外に患者は確認されなかったことから家族内感染と推察された。

本分離菌株は継代すると乳糖分解菌と乳糖非分解菌が出現し、 BTB乳糖寒天培地やDHLなどの分離培地あるいはTSI培地では2種類の菌が混在しているように観察された。しかし、 両菌株とも糖分解能で差異が認められる以外の生化学的性状は、 典型的な大腸菌の性状を示すVT2産生菌であった。薬剤に対する感受性試験(栄研化学ドライプレート DP21)では総じて感受性を示したが、 両株ともセファクロルに対して弱い抵抗性を示した(中間型)。

EHEC感染症の原因菌となる主な血清型はO157あるいはO26であるが、 近年血清型不明による事例が増加する傾向は、 市販血清がなく判定できない今回のような事例も含まれるためと思われる。

このように、 特殊な血清型によるEHEC感染症が発生した場合、 診断用血清が迅速あるいは必要量入手できない状況であれば、 EHEC感染拡大防止対策に支障をきたす恐れがある。幸いにも本事例は散発発生に留まり、 保有抗血清のみで対応は可能であったが、 今後、 市販されていない抗血清の容易な入手方法を関係機関で検討する必要があることを痛感した。

菌株を分与いただきました保健科学研究所仙台支社、 抗血清を分与いただきました宮城県仙台家畜保健衛生所および検体採取等をしていただきました関係保健所の担当各位に感謝いたします。

宮城県保健環境センター・微生物部 齋藤紀行 佐々木美江 有田富和 畠山 敬 秋山和夫

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