保育園における腸管出血性大腸菌O26:H11の集団発生事例−堺市

(Vol.23 p 321-322)

2002年8月中旬に保育園で、 腸管出血性大腸菌O26(以下O26)の集団発生があったのでその概略を報告する。

8月23日、 某病院から市内に居住する保育園児B(2歳女児、 8月16日に下痢症状を示す)よりO26 分離の発生届けがなされた。当市は状況調査およびその家族への二次感染防止の指導と、 併せて通園している保育園の児童(園児3クラス86名、 学童保育20名)、 職員(保育士16名)等を対象に24日より合計 153検体の糞便検査を実施した(感染者調査)。

保育園の給食は某病院の給食施設で調理されていたため、 最初の感染児童Bの発症日の8月16日から逆算して、 8月12日〜16日までの保存食46検体、 給食施設のふきとり42検体、 放流水2検体および調理従事者35検体、 合計125検体をさらに検査した(環境調査)。

陽性児童のうち消化器症状を呈した有症者13名中9名はいずれも1〜2歳児クラスの児童であった(図1)。健康調査の結果、 初発患児Aと同クラスのBを含む7名(うち6名は菌陽性)が8月14日にビニール製の幼児用プールで一緒に水浴し、 プール中に汚物が浮遊していたことが判明した。続いてこれらの6名より同クラスの他の児童と他クラスの児童にも連続して広がったものと疑われたが、 その感染経路は不明であった。

感染者調査(8月24日〜9月9日)では児童106名中23名(22%)(初発患児Bを含む)からO26:H11(VT1産生)が分離された。陽性者の内訳は1〜2歳児クラスに多く、 22名中14名(64%)で、 0歳児クラス24名中3名(13%)、 3歳児以上クラス40名中5名(13%)、 学童保育20名中1名(0.5%)の順であった。陽性児童の健康調査では23名中13名は下痢、 腹痛、 軟便などの消化器症状を呈していた。有症者の内訳でも1〜2歳児クラスが9名と多く、 0歳児クラス3名、 3歳児以上クラス1名、 学童保育0名であった。保育士および陽性者の家族(31名)の結果はすべて陰性であった。有症者および保菌者はFOM投与を受け、 菌は陰性化し再排菌はなかった。以後9月末までに陽性者は見られない。

環境調査では消毒前の放流水1検体だけがO26:H11(VT1産生)陽性であった。

分離された24株は細菌学的解析で同一由来の菌と考えられた(図2)。

O26の全国分離状況では1996年以降増加が続き、 O157に次いで検出頻度が高く、 2001年には保育所で5件の集団発生があった(本月報Vol.23、 No.6参照)。O26による腸管出血性大腸菌感染症は今回の事例のようにVT1単独産生菌が多く、 臨床症状も比較的軽いと言われている。O157と比べ潜在し長期化することがある。発生予防には保育所などの職員は特に児童の手洗いと糞便の取り扱いに常に注意を払うことが大切である。下痢症状があるときには手洗いの徹底と、 医師への相談、 夏季であれば幼児用プールの使用を控えるなど早期の適切な処置を施すことが必要である。また、 幼児は少量の菌でも感染を受け易く、 感染者調査を早期に実施し、 有症者と無症状保菌者を把握することが拡大を防ぐために重要である。

堺市衛生研究所・細菌部門 山内昌弘 石津眞理子 横田正春 大中隆史 田中智之
堺市保健所 安井良則 西牧謙吾 手嶋敬彦 福田雅一

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