老人保健施設における腸管出血性大腸菌O157集団感染事例−姫路市

(Vol.23 p 319-320)

2002(平成14)年8月12日、 医療機関から市内老人保健施設の入所者2名から腸管出血性大腸菌O157(VT1&VT2)を検出したとの報告を受けた。姫路市保健所が調査を行ったところ、 入所者58名、 通所者8名および職員18名の計84名が下痢(81%)、 発熱(31%)および腹痛(23%)の症状を呈していたことが判明した。

このことを受けて当研究所は、 同保健所の依頼により、 施設の入所者 103名、 通所者70名、 職員を含む施設従事者81名、 調理員8名および患者家族等12名の計 274名の検便を実施するとともに、 集団食中毒の可能性を考慮し、 給食の保存食141検体および調理器具、 施設等のふきとり15検体のO157検査を実施した。

その結果、 8月13日〜20日にかけて、 入所者7名、 通所者1名、 職員1名および調理員2名の計11名(27〜88歳)よりO157:H7(VT1&VT2)を分離した。初発患者2名を含めた13名のうちの8名(いずれも入所者、 78〜88歳)が下痢(平均回数 3.1回)、 軟血便および発熱(平均38.2℃)等を伴う有症者で、 残り5名は無症状であった。ついで、 O157陽性者13名の分離株について、 制限酵素Xba I処理によるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行ったところ、 13名全員のPFGEパターンが一致した(参照、 残り1名も同一のパターンを示した)。給食の保存食およびふきとり検体からO157は検出できなかった。

保健所のその後の調査で、 7月25日〜8月13日の間に同老人保健施設を1回以上利用した人で、 腹痛、 下痢、 発熱および嘔吐のいずれかを呈する者、 およびO157陽性者を有症者と症例定義し、 有症者と無症者のマスターテーブルを作成してχ2検定および相対危険度・オッズ比の算定を行ったが、 統計的に有意な結果は得られず、 原因食品は特定できなかった。そこで、 O157陽性者全員について詳しく調査したところ、 共通事項は7月30日の昼食(喫食者150名)の喫食のみで、 内容は、 ごはん、 タラのチーズフライ、 ポテトサラダ、 茎ワカメの煮付けおよびみそ汁であった。

O157陽性者全員の共通食が7月30日の昼食のみであり、 陽性者分離株すべてのPFGEパターンが同一であったため、 同日の給食が原因となった可能性が示唆された。しかし、 同日が曝露日であったと仮定した場合、 発症日が8月3日(1名)、 5日(2名)、 7日(1名)、 8日(1名)、 9日(1名)および10日(2名)とばらつき、 一般にいわれるO157:H7感染症の潜伏期間範囲3〜8日、 中央値3〜4日から外れ、 給食の保存食からも菌は検出されなかった。また、 同日の喫食者150名の大半が70〜90代の高齢者であったにもかかわらず、 O157陽性者8.7%(13/150)、 患者5.3%(8/150)と低率で、 重症例もなく、 陽性者のうち39%(5/13)が不顕性感染者であり、 同時期に栃木県で発生した老人保健施設O157:H7食中毒事件と比較して症状は軽度であった。さらに、 不顕性感染の調理従事者2名は8月13日に実施した検便から同菌が検出されたが、 7月25、 26日および8月7日の定期検便では陰性であったことから、 7月30日の昼食を汚染した可能性は低いと思われた。以上のことから本事例は、 給食を原因とするO157集団食中毒の可能性と、 集団生活における共通汚染源による二次感染の可能性が考えられたが、 特定には至らなかった。

最後に、 同施設では症状を訴えることが困難な入所者が多く、 症状および喫食内容については看護記録に頼ったが、 下剤の服用により下痢を呈している人も多く、 症状の判断に苦慮した。今後は、 このような施設において集団食中毒や感染症事例が発生した場合、 その症例定義について検討を重ねる必要があると思われた。

姫路市環境衛生研究所
姫路市保健所衛生課・予防課

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