The Topic of This Month Vol.23 No.11(No.273)

A型肝炎・E型肝炎 2002年9月現在

(Vol.23 p 271-272)

A型肝炎とE型肝炎は、 患者の糞便中に排泄されたウイルスによる経口感染が主であること、 時に汚染された食品・飲料水を介する集団発生がみられること、 典型的症状は黄疸を伴う急性肝炎で慢性化しないことなど共通点が多い。わが国では近年A型肝炎は減少しているが、 依然として国内感染例が多数みられ、 ことに成人患者の増加に伴う劇症肝炎の発生が懸念されている(本月報Vol.18、 No.10参照)。一方、 E型肝炎は国内での報告は少ないが、 海外では致死率がA型肝炎の10倍ともいわれ、 特に妊婦での致死率が20%との報告もある(本号5ページ参照)。A型肝炎・E型肝炎は、 1999年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)に基づく感染症発生動向調査において、 全数把握の4類感染症「急性ウイルス性肝炎」として全医師に診断後7日以内の届け出が義務付けられている(報告基準は本月報Vol.23、 No.7参照)。なお、 ウイルスの内訳(A、 B、 C、 D、 E型、 その他の場合はそのウイルス名)の記載と、 劇症肝炎となった場合は「症状」欄にその旨記載することも求められている。

1.A型肝炎:国内感染が推定される患者(国内例)が1999年に特に多かった(図1)。国外感染が推定される患者(国外例)は2001年、 2002年と増加しており、 2002年は9月末までで既に2001年の年間報告数を上回っている。国外例の主な推定感染地はアジアで、 2002年には特に中国が急増している(表1)。

性別年齢分布:1999年の国内例では20〜40代男性が目立つ(図2)。2001年に20代女性の国外例がやや多かったが、 特定地域への集積はみられなかった。2002年に増加した国外例のほとんどは30代〜50代前半男性で、 中国での感染が推定されるものが多かった。これまでに劇症肝炎と記載された6例は40〜64歳で男性が5例と多い。

国内例:都道府県別発生状況を図3に示す。1999年第14〜28週には東京、 大阪、 京都、 兵庫など大都市で患者が多かった。1999年第47週〜2000年第8週に徳島で計63例の患者の集積がみられた。この他、 患者発生が連続して報告された時期と地域を挙げると、 2000年は第36〜44週岐阜21例・神奈川15例。2001年は第12〜25週岐阜25例・大阪18例・兵庫16例、 第19〜23週神奈川18例、 第15〜30週福岡23例、 また東京では第17〜32週36例、 第39〜44週13例。2002年も第2〜8週千葉17例・東京13例・静岡6例、 第11〜16週山口14例・愛知11例・宮城14例・山形11例が、 また、 第10〜27週には東京57例・神奈川17例・埼玉12例・千葉9例と首都圏4都県で計95例が報告され、 9月末までにほぼ前年と同数の国内例が発生している。

推定感染経路:1999年4月〜2002年9月に診断された国内例1,790例のうち推定感染経路が記載されていたもの459例中374例(81%)は生カキなど魚介類の生食、 48例(10%)は寿司の喫食が原因と推定されている。以下に感染経路が推定され、 A型肝炎ウイルス(HAV)が検出された最近の集団発生事例を挙げる。

1)2001年12月に浜松市の飲食店でウチムラサキ(通称;大アサリ)を喫食した57人中22人がノーウォーク様ウイルス(NLV)胃腸炎を、 1カ月後に4人がA型肝炎を発症した(本月報Vol.23、 No.5参照)。

2)2002年3月に東京都の飲食店でウチムラサキを喫食した86人中44人がNLV食中毒を、 1カ月後に2人がA型肝炎を発症した。また、 飲食店従業員1人と別グループの客2人もA型肝炎を発症した(本号3ページ参照)。

3)2000年9〜11月に岐阜県で寿司店主と従業員5人、 その店で喫食した客15人と家族3人の計23人がA型肝炎を発症した(本月報Vol.23, No.6参照)。

4)2002年3月に東京都で同じ店の寿司を喫食した客22人および寿司店従業員2人がA型肝炎を発症した(本号3ページ参照)。

予防と対策:上記第1事例と第2事例はHAVに汚染された食材が原因と考えられる。厚生労働省研究班(西尾ら)の調査では中国産輸入二枚貝122件中3件(ハマグリ2件、 ウチムラサキ1件)からRT-PCRでHAVが検出されている(本号4ページ参照)。A型肝炎の感染経路を特定するためには輸入魚介類の喫食調査が重要であり、 広域流通する輸入食品を介する感染拡大を食い止めるためには早期の患者届け出の徹底と、 生産地のA型肝炎流行状況の情報把握が望まれる。また、 食中毒予防の基本として食品の中心部まで十分加熱して食べることが重要である。

第3事例と第4事例はHAVに感染した調理者によって食品が汚染されたため飲食客へ感染が拡大したと考えられる。HAVは発症前にウイルスが排泄されるので、 調理者は常に手洗いなどの基本的な衛生管理の徹底が必須である。また、 人→人伝播で家族内、 施設内で感染が拡大する場合もある(本月報Vol.18、 No.10参照)。A型肝炎はワクチンによる予防が可能であり、 日本では16歳以上で任意接種として接種できる。A型肝炎流行地への渡航予定者の感染予防のみならず、 施設内での感染拡大予防などにもワクチンの利用が望まれる。

2.E型肝炎:現在、 E型肝炎はRT-PCR法によるE型肝炎ウイルス(HEV)遺伝子検出およびELISA法によるIgM抗体検出により確定診断が可能である(本号5ページ参照)。感染症発生動向調査で1999年4月〜2002年9月にE型肝炎と報告された患者は7例であったが、 このうちHEV感染が確認されたのは4例で、 RT-PCR法による遺伝子検出が2例、 ELISA法による抗体検出が2例である。確認例は20代と50代の男性で、 推定感染地は国外3例(中国、 インド・ネパール、 インド)、 国内1例である。初診日から診断日まで多くの日数を要している(17〜37日)。

1993年に採血された日本の健常人血清におけるHEV 抗体保有率は5.4%(49/900)で、 20代以下では非常に低く(0.4%)、 30代(6.2%)、 40代(16%)、 50代(23%)と年齢が高いほど保有率も高いことが報告されている(図4および本号5ページ参照)。一方、 各種の動物がHEVに感受性のあることが示され、 最近日本の豚について行われた調査でも生後60日の豚73頭中2頭と生後90日の豚22頭中1頭からHEVが分離されている(BBRC 289:929-936, 2001)。また、 ワクチンの開発研究が進行中である(本号6ページ参照)。

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