胸痛を主訴とする夏カゼ様疾患患者からのエコーウイルス13型の分離−熊本県

(Vol.23 p 289-289)

2002(平成14)年6月24日頃から熊本県南にあるA高校で胸痛を主症状とする夏カゼ様疾患患者が多発し、 その咽頭ぬぐい液および糞便からエコーウイルス13型(E13)が分離された。

最初、 屋外で部活動をする生徒に不調を訴えるものが多く、 その症状は大部分が胸部痛および腹痛、 次いで下痢、 頭痛、 発熱(37℃以上、 39.5℃もあった)であった。グランドにある水道蛇口水、 水のみボトル等について食中毒菌の検索を行ったが陰性であった。その後、 屋内部活動部員および部活動をしていない生徒へと拡がったので感染症を疑い、 その時点で胸痛の症状がある患者の咽頭ぬぐい液9検体、 糞便4検体について細胞培養法によるウイルス分離を行った。

用いた細胞はHeLa、 FL、 Vero、 RD-18SおよびCaco-2である。HeLa細胞でよく分離され、 咽頭ぬぐい液から4株、 糞便から4株分離された(表1)。ウイルスはデンカ生研製抗E13単味血清で容易に中和された。

患者の急性期および回復期のペア血清について、 分離株を用いて中和抗体を測定した(表2)。抗体は大部分有意の上昇を示したが、 急性期血清の中には発病後かなり経ってから採取されており高い抗体価のものもあった。E13分離株に対する福井県および広島県住民の中和抗体保有状況(本月報Vol.23、 No.7およびVol.23、 No.8)によると、 この年齢層の抗体保有率は低い(5%および11%)。また、 全年齢層をみてもこれほど高い抗体価を示す血清はなく、 感染後の抗体上昇を明らかに示している。これらのことから、 今回の胸痛を主症状とした疾患の原因病原体はE13であることがわかった。

今年度当研究所で分離したE13は、 本報に述べた分離ウイルスを除いて、 5月3、 6月29、 7月13、 8月1株であった。その疾患名はヘルパンギーナ、 夏カゼ、 上気道炎、 無菌性髄膜炎、 発疹症等であったが、 胸痛を訴えるものはなかった。E13が流行しているなかで、 胸痛症がなぜここだけで発生したのかはわからない。流行性筋痛症をおこすウイルスの多くはコクサッキーウイルスB群(CB)といわれているが、 今回CBは分離されなかった。今後、 このウイルスが変異したウイルスなのかどうか、 標準株を用いた抗体価測定とシークエンスを行っていく予定である。

熊本県保健環境科学研究所 甲木和子 松尾 繁 東 明正
熊本県水俣保健所 井手口恵美 宮本清也 佐藤克之
熊本県健康増進課 岡本邦利

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