RT-PCR法を用いたヒトA型インフルエンザウイルス分離株のノイラミニダーゼ(NA)サブタイプの同定

(Vol.23 p 287-288)

我々は以前から、 インフルエンザウイルス(Inf.V)の臨床分離株については、 それらのHAサブタイプだけでなく、 NAサブタイプについても併せて同定することが必要であることを指摘してきた1)。

わが国では、 各地方衛生研究所等を中心に、 毎年多くのInf.Vが分離されており、 それらの臨床分離株のほとんどが、 HI試験等によってHAのサブタイプが同定されている。その一方で、 NAのサブタイプの同定については、 サブタイプ特異的な抗血清の入手が困難であることや、 NI試験の手技が煩雑で、 多数の臨床分離株に適用することが困難であること等の理由から、 これまでほとんど実施されてこなかった。そうした現状の中、 2001年〜2002年にかけて、 ヨーロッパを中心にヒトのA/H1N1型とA/H3N2型のリアソータントと思われる、 新型のInf.V A/H1N2型が多数分離された(本月報Vol.23、 No.5、 p.14外国情報参照)。さらにわが国においても、 2002年2月にはA/H1N2型の国内への侵入が確認されている(本月報Vol.23、 No.8、 p.6-7参照)。従って、 今後国内で分離される臨床分離株については、 それらのNAサブタイプを同定することが、 ますます重要となると思われる。

当センターでは、 以前からRT-PCR法を用いたInf.V臨床分離株のNAサブタイプの同定を試みている。方法は、 Inf.V感染MDCK細胞培養上清あるいは発育鶏卵漿尿液からウイルスRNAを抽出し、 表1に示したプライマー・ペアを用いたRT-PCR法(逆転写反応は42℃ 60分、 PCR 反応は94℃1分、 55℃1分、 72℃1分を35サイクル)により、 NAサブタイプに特異的な遺伝子増幅を確認している。なお、 このRT-PCR法の特異性については、 図1に示したInf.V標準株を用いて確認するとともに、 臨床分離株の一部について、 RT-PCR法で増幅した遺伝子産物をダイレクトシークエンスすることでも確かめている。

このRT-PCR法を用いて、 1996年1月〜2002年3月までの間に、 広島県内で分離されたA/H1型およびA/H3型のInf.V臨床分離株、 合計96株について、 それらのNAサブタイプを同定したが、 いずれの株もA/H1N1型、 あるいはA/H3N2型であった。

2002/03シーズン以降、 A/H1N2型ウイルスの流行が拡大していくか否かについては、 興味が持たれるところである。今回我々が示したRT-PCR法や、 川上ら(本月報Vol.23、 No.8、 p.6-7参照)が紹介した同様の方法を用いて、 より多くの臨床分離株のNAサブタイプが同定されることを期待したい。

参考文献
1)高尾信一他、 臨床とウイルス 29(2): S28, 2001

広島県保健環境センター
高尾信一 島津幸枝 福田伸治 桑山 勝 宮崎佳都夫

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