米国におけるウエストナイル熱流行の現状

(Vol.23 p 277-278)

ウエストナイルウイルス(WNV)は鳥と蚊の間で感染環が形成され、 感染蚊の吸血によりヒトに感染する。ウエストナイル熱は過去アフリカ、 ヨーロッパ、 アジアでの報告があったが、 1999年まではアメリカ大陸でのWNV感染は報告されていなかった。

米国においては1999年初めてウエストナイル熱流行がニューヨーク市周辺であり、 62人の患者が報告された。2000年には21人、 2001年には66人の患者が報告されている。本年2002年は10月24日現在、 実験室診断でWNV感染陽性と判定された例は3,346人、 このうち183人の死亡が報告されている。患者は全米39州で報告されており、 23州では本ウイルス感染による死亡者の報告がなされている。患者数を州別に見ると、 中西部のイリノイ州705人、 ミシガン州463人、 オハイオ州383人、 インディアナ州247人、 ミズーリ州159人、 および南部、 南西部のルイジアナ州310人、 ミシシッピ州178人、 テキサス州137人からの報告が多い。西海岸のカリフォルニア州でも患者の報告がなされている。ヒト、 蚊、 鳥、 馬等の動物いずれの調査においてもWNVの侵入が報告されていないのはオレゴン州、 アイダホ州、 ネバダ州、 ユタ州、 アリゾナ州とアラスカ州、 ハワイ州のみであり、 米国においては大西洋岸から太平洋岸に至るほぼ全域にWNVが侵入したと考えられる。患者発生を報告した州が、 1999年1州、 2000年3州、 2001年10州であったことから、 2002年は非常に早い速度でウエストナイル熱・脳炎の患者発生が広がっていることになる。米国全体では8月には1日平均約25人、 9月には1日平均約59人、 10月には1日平均約39人の患者報告がなされている。9月には1日に100人以上の患者が報告された日もあったが、 10月中旬以降、 幾分沈静化の方向に向かっていると推察される。しかし、 2002年には1月にすでに鳥や馬の感染が報告されたことから、 WNVは米国に定着し、 今後毎年一年を通じてWNV感染者が出ることも予想される。

WNV感染の新たな問題として、 感染蚊の吸血による通常の感染経路とは異なる経路での感染が報告されていることがあげられる。まず、 輸血によって感染したと考えられる4例が報告された。この4人以外にも25件が現在調査中である。また、 臓器移植によって感染した可能性がある5例が報告されているが、 このうち4例は同一のドナーから心臓、 肝臓、 腎臓(2人)の移植を受けていた。他の1例は肝臓移植を受けた患者であった。さらに、 母乳によってWNVに感染した可能性がある新生児が報告され現在調査中である。米国以外にもカナダやカリブ海諸国においてもWNVの活動は報告されている。従って、 WNVは米国のみならず北米大陸およびその周辺に広がりつつあると考えてよい。今後、 日本から米国への旅行者の現地での感染、 北米から日本への感染鳥や感染蚊の侵入に十分注意する必要がある。

国立感染症研究所・ウイルス第一部 倉根一郎

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