2保育所および1中学校にまたがり発生したノーウォーク様ウイルスによる食中毒事例−福井県

(Vol.23 p 256-257)

2002年1月29日午後、 福井県T町内のA保育所の園児10数名が激しい嘔吐等の食中毒様症状を呈しているとの連絡が管轄保健所にあった。T町内の他の2保育所に問い合わせた結果、 B保育所においても園児10数名が同様の症状を訴えていることが確認された。さらに30日夜〜31日朝にかけてC中学校の生徒20数名も食中毒様症状を呈していることが、 31日朝明らかとなった。その後2月1日には、 既発症者の兄弟姉妹が下痢症状を呈し、 医療機関を受診しているとの連絡があり、 いわゆる二次感染と考えられる症例もみられた。

調査の結果、 共通食品としてT町内のD製造所納入の給食用パンが推定された。このD製造所は、 A・B両保育所およびC中学校の給食用パンのみを専属的に製造・納入しており、 28日給食用パンがA・B両保育所へ、 29日給食用パンがA保育所およびC中学校へ、 それぞれ納入・喫食されていた。A・B両保育所の給食用パン以外の副食は、 献立内容こそほぼ同じであるが、 食材納入業者も調理過程も別々(それぞれ独立した給食室で調理)であった。C中学校における給食用パン以外の副食は、 T町内の他の7小学校・2中学校と同じく町立学校給食センターで調理されていた(約1,400食)が、 他の9小中学校で患者発生は見られなかった。なお、 患者発生のなかった1保育所および9小中学校への給食用パンの納入は他の製パン業者が担当していた。これらのことから管轄保健所では、 原因食品はD製造所製造の28・29日給食用パン以外にないとの結論に至った。

最終的には発症者が254名(届け出患者数130名)にのぼる大規模な集団発生となった(参照)。内訳はA保育所97名(含む職員4名)、 B保育所78名(同9名)、 C中学校79名(同6名)で、 給食用パン喫食者における発症率は、 それぞれ67%、 60%、 22%であり、 A・B両保育所の方がC中学校より明らかに発症率が高かった。症状としては嘔気・嘔吐を訴える率が非常に高く、 次いで腹痛、 下痢、 発熱、 頭痛、 悪寒等の順であった。潜伏時間はA・B両保育所で約30時間前後、 C中学校で約34時間と算出された。また二次感染者と疑われたのは最終的に39名であった。

このうち、 喫食発症者の糞便14名分・嘔吐物8名分、 喫食無症状者の糞便3名分、 二次感染者の糞便3名分、 D製造所従事者の糞便2名分について検査したところ、 のとおりgenogroupII(GII)に属するノーウォーク様ウイルス(NLV)が検出された。NLVのポリメラーゼ領域をターゲットとしたRT-PCRで陽性を示した20検体はすべて、 サザンハイブリダイゼーションにおいてAndoらのP2-Bプローブとの反応が確認された。さらに検出遺伝子配列の解析を、 喫食発症者の糞便由来3検体(A保育所・B保育所・C中学校で各1検体ずつ)、 喫食発症者の嘔吐物由来1検体(A保育所)、 二次感染者の糞便由来1検体、 D製造所従事者の糞便由来1検体の計6検体について行ったところ、 完全に配列が一致し、 GIIに属するNLVと確認された。なお糞便(2月1日採取)がNLV陽性を示したD製造所従事者は、 必要量より多めに焼いて余ったパンを自宅に持ち帰り喫食することが習慣となっており、 原因食品と目された28・29日給食用パンと同ロットのパンも喫食していることが確認されているので、 パン喫食によるウイルス排出の可能性も考えられた。

一方、 D製造所内のふきとりや調理用物品についてもNLV検出をRT-PCR(nested)で試みたところ、 作業用手袋1検体から発症者由来配列と完全一致するNLVが検出された。さらに別の作業用手袋1検体・調理台ふきとり1検体からは、 GIIの別のクラスターに属すると考えられるNLV(発症者由来配列との相同性は76.1%)が検出されており、 D製造所内がNLVにより汚染されていたことがうかがわれた。

福井県衛生環境研究センター
東方美保 松本和男 浅田恒夫 堀川武夫

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)

idsc-query@nih.go.jp


ホームへ戻る