同時期に近隣の乳幼児施設で発生した2事例の集団赤痢−千葉県

(Vol.23 p 228-229)

事例1:2002年1月21日、 赤痢患者発生の届け出がなされた。同日保健所が調査を開始したところ、 患者が通っている幼稚園では8クラス285名中40名が欠席していた。特に5歳児Aクラスでは欠席者が在籍人数35名中19名に及び、 クラス担任は下痢、 腹痛、 発熱を訴え休暇中であることがわかった。保健所および医療機関による検査の結果、 5歳児Aクラスの園児24名(69%)、 クラス担任1名、 他のクラスの園児4名、 および園児家族13名からShigella sonnei が検出された。S. sonnei が検出された園児の症状は、 発熱を伴う水様下痢(28名)および下痢(1名)で、 血便を伴う例も認められた。園児の発症は1月18日および19日に集中していた(図1上)ことから、 5歳児Aクラスを中心とした単一曝露が疑われたが、 園児が週3日利用していた給食業者の弁当の検食、 園内環境のふきとりなどからは赤痢菌を検出することはできなかった。

一方、 聞き取り調査を行う中で、 当幼稚園では昼食前に、 ブラシを使って水道水と石けんで手洗いした後、 各クラスに用意された洗面器に逆性石けん液を作製し、 担任を含めた全員が10秒間程度手を浸す習慣であることが明らかとなった。何らかの原因でこの逆性石けん液がS. sonnei に汚染され、 患者の拡大につながった可能性が疑われた。当幼稚園では、 S. sonnei による集団発生以前から消化器症状や発熱等の症状を示す園児が数名いたものの、 患者発生の探知後に行った一斉検便の結果からは、 本事例の原因となりうる発端者の特定はできなかった。

事例2:同年2月1日、 医療機関から赤痢患者発生の通報および届け出がなされた。通報を受けた管轄保健所は患者等の調査を開始し、 患者が通う保育所園児・職員・園児家族の有症者等を対象として検便を実施した。その結果、 医療機関から報告された患者を含めて、 園児6名,職員1名、 園児家族2名からS. sonnei が検出された。園児6名のうち1名は2月1日に発症し、 家族内二次感染者と考えられた。その他の5名の内訳は3歳児クラス(在籍22名)2名、 4歳児クラス(在籍27名)1名、 5歳児クラス(在籍34名)2名で、 クラスによる偏りはみられなかった。これら園児は1月23日および24日の2日間に発症しており(図1下)、 人あるいは物による単一曝露が考えられたが、 原因調査では給食・使用水に汚染は認められず、 原因は特定できなかった。家族2名は発症園児からの家族内二次感染と考えられた。園児の症状は主に発熱を伴う腹痛と水様下痢で、 39℃を超えるえる発熱も認められた。

検査結果および考察:事例1および事例2の概要のまとめを表1に示す。2事例の原因施設の幼稚園と保育所は、 直線で12キロメートルほどの距離に位置することから、 生活圏は共通する部分が多く、 関係者間に接点があることも充分考えられる。しかも、 事例1の家族感染者と事例2の患者発生時期が重なっていることから、 同じ原因による発生あるいは二次感染による発生の可能性も考えられた。

しかし、 分離株の薬剤感受性試験の結果、 事例1由来株は1株(ABPC単剤耐性)を除いて41株が使用薬剤に感受性を示し、 事例2由来株は9株すべてST合剤、 TMP耐性株であった。また、 パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンを比較した結果、 事例1由来株はABPC耐性を示した1株で2〜3本のバンドの増減が認められたものの、 その他の41株はパターンが一致しており、 事例2由来株9株は同一パターンを示した。一方、 事例1と事例2由来株のパターンは異なった(図2)。したがってこれら2事例は、 別の原因による独立した発生であると結論された。事例1および事例2由来株のPFGEパターンは、 昨年末に流行した生ガキ関連患者由来株とは異なり、 感染研からのコメントでは、 いずれも以前の分離株では見られない新しいパターンであるとのことであった。

調査資料を提供して下さった、 柏保健所および松戸保健所の関係各位に深謝いたします。

千葉県衛生研究所 内村眞佐子 小岩井健司

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